ヤフーオークションで象牙のローズ型ブローチを7,750円で購入した。相手方は個人で営む骨董店のようである。
しかし届いた商品は、ワシントン条約締結(1989年)以前の象牙とは思えないような色で、削り残しがある仕上げのされてない製品だった。なので「象牙ではないのではないか」と質問すると、「数年前の象牙製品」だというので、それでは、密輸品の可能性が大だから、返品したいと申し出て返品した。
すると、本象牙かどうかを疑っているのだから、1,000円前後で鑑定できると言ってきたので、鑑定をしてもらうと象牙だと鑑定されたという。ところが象牙の場合、ダイヤモンドではないので鑑別しかありえず、この鑑定はインチキくさい。さらに、顧問弁護士から、「象牙製品の売買をしても問題ない」とアドバイスされたと言ってきて、東京象牙美術工芸協同組合のホームページを指し示して、返品を受け付けず返金してくれない。
そこで、その弁護士を聞き出し電話で聞くと全くの無関係で、その上、東京象牙美術工芸協同組合に問い合わせると、「ワシントン条約締結以前も以後も、日本製象牙製品に削り残しがあるような製品はありません」という返事であった。
つまり、届いた商品は、本象牙なら、日本製品でない数年前の象牙製品ということで、広義の密輸品(東京象牙美術工芸協同組合によると、個人が土産として税関をすり抜けて象牙製品を密輸するケースが多いそうである)となってしまう。そこで、再度返金を求めているが、このまま泣き寝入りするのはおかしいと思う。
相談に来るまでの間に、いろいろ相手方事業者と交渉をしているようであったので、メールのやり取り送付を伝えた。
相談者は「メールのやり取りは少し前PCがクラッシュしてしまったので全ては無いが、一部分であれば送ることが出来る」とのことであった。しかし、その残されたメールの量ですら大量であることが伺えたので、とりあえず送付は待ってもらい、まずは経緯のみを聞くことにして、以下の点が新たに分かった。
・事業者は「私は宝石鑑別の資格を所持しています」とか、「当方の顧問弁護士によると」とか、「法的なご質問に関するお答えは、A総合法律事務所、M氏」と言っていた。
・A総合法律事務所のM先生に電話したら出品者とは顧問契約もしておらず、無関係であるとの回答をもらった。ただ事務局のS氏は出品者の叔父の友人で、S氏が叔父に個人的にアドバイスしたようだ。「全く無関係で顧問契約もないのに顧問弁護士だというような人物は信用できないし、弁護士の名前を騙るだけでキャンセルに十分だ」と言われている。
そこで、相談者は相談室で相談していることを事業者に伝えてあること、また、あっせんを希望したので、相談室より事業者に連絡を取った。
そして事業者からの回答により、以下の経緯が分かった。
・商品到着後、2日目に相談者よりメールがあり、「家には20点以上の象牙のコレクションがあるが、今回のブローチは家にある象牙製品と何か違う、象牙にしては透明度があり、水牛の牙類なら分かるが、象牙の不透明な乳白色でも古色のあめ色でもない、また昔のもので、最後の仕上げがされてない象牙製品は見たことがない、昔の象牙製品で無ければ入札はしなかった」とのことだった。
・そこで、もし象牙の材質について疑問なら、こちらまで現品を送れば鑑別センターの方へ正式な鑑定依頼をすると答えた。その上で、もしも贋物である場合にはこちらで鑑別料を負担したうえで代金も返金するが、本物の場合は鑑別にかかる費用(1,000円程度)を負担するよう求めた。また昔のものではなく数年前の商品で、仕上げについては100円スタートということで勘弁して欲しい、と伝えた。
・相談者からは「1,000円で鑑別書をつけて頂けるのならお願いする」旨、「美品、未使用品、という表示とアンティークなデザインから、ワシントン条約締結以前のアンティークと思って落札したが、「ここ数年の新品中古」ということは、1999年に再開された象牙輸入は、目的を印鑑に限っており、日本製とは思えない仕上げから、ワシントン条約違反の密輸品の可能性が大で、もし象牙と鑑別されると法律違反になる、新たにアフリカ象を殺害して得られた象牙で作られた製品など欲しくない」とのことだった。
・そこで宝石流通に詳しい知人(名古屋市在住)に依頼して、宝石鑑別において信頼のおける中央宝石研究所に鑑別をお願いした。そこで象牙のブローチが贋物でないことが鑑別され、その費用として1,575円(消費税75円を含む)を中央宝石研究所に支払った。仲介してくれた知人にも、お礼として寸志を支払った。通常、一般の方が鑑別を依頼すると、そのような安価では鑑別を行なってもらえないからである。
その旨知らせると「1,000円以上は支払えない」とのことだった。仕方がないので商品とともに鑑別書を私の送料負担で送付すると伝えると、受け取り拒否にて開封もされないままの状態で返送されてきた。
・出品した象牙のブローチが密輸品であるか否かの問題については皆目見当もつかない。通常のジュエリーショップやオークションにおいても象牙のアクセサリーはごく一般的に販売されており、相談者の説が正しいとすれば、それらの日本製でないジュエリーのすべてが、密輸品であるということになってしまう。
出品したブローチも、そうしたジュエリーショップで販売されていたものを叔父が購入したものである。
・相談者からは、入金した7,750円(商品代金)+610円(送料)+550円(返送料)+130円(振込料)=9,040円を返金するよう言われている。
こちらでは返品には応じるが、以下のことを条件にしている。
落札品が贋物ではなく、正真正銘の本象牙製品であることを認めること。
落札品が密輸品ではないと認めること。
依頼により鑑定機関に提出し、現在もなお立て替えている鑑定料1,575円(消費税を含む)を返金する落札金額より差し引くこと。
受取拒否の際の送料610円を返金する落札金額より差し引くこと。
落札者都合によりオークション取引がキャンセルされるため、オークションに支払った 落札価格の3%の手数料250円、および出品手数料10円を返金する落札金額より差し引くこと。
・弁護士に関しては、叔父が顧問契約をしていなかったことは知らなかった。M先生とS氏の名前は、相談者が「どこの弁護士会のなんという人から聞いたのか?」と質されて、記憶にある名前を出しただけである。利用しようとなどとは考えておらず、叔父がアドバイスを受けたのは事実である。相談者は散々この弁護士の話を持ち出したが、取引とは関係ない。
その間に、相談者より、クラッシュしたPCから救い出せた分、ということで、やり取りメールを相談室に送ってきた。その数は37通に及んだ。そこには大体双方から聞き取った経緯に沿ったやり取りがなされていた。
そこで、いろいろと経緯はあったが、今は返品については合意している、しかしその費用負担についてかなり双方の希望に開きがあるので、どこまで譲歩が可能かを探ることにした。
相談者は鑑別書が本物であれば最大限譲歩して、7,750円(商品代金)+610円(送料)+550円(返送料)+130円(振込料)−1,000円(鑑別料)=8,040円で良いとの回答であった。
事業者からは、7,750円(落札代金) - 1,575円(鑑別料) - 610円(鑑別終了後の返送料)- 232円(落札手数料・落札代金の3%) -
10円(出品手数料)=5,323円ということで、さらにここから返金時の振り込み手数料を引く、というものであった。
ただ、ここから何度か双方とやり取りしたが、相談者は弁護士や鑑別書の話、密輸品であることを何度も主張し、また事業者は正規で購入したものを密輸品扱いされて、何の落ち度も無いのに返品に応じているので、相談者の費用負担は当然、ということで、双方の主張は平行線をたどっていた。
そのうち、相談者が「これは密輸品なので、警察に行く」と主張し始めた。相談者は、当該商品が密輸品である、と決め付けてしまっており、相談室にて、その確証を取ることは困難であることを伝えても納得できない様子であった。相談室では密輸品であることを前提で、あっせんは継続出来ないことを伝えた。
ワシントン条約に関しては、「ちょっとためになる話 第十一話」を参照していただければと思う。象牙は1989年に付属書が移行されて全面輸入禁止となり、1999年に1度輸入されたが、その後は輸入されていない。ただ国内での象牙製品の販売・加工等には特に問題はない。
そこで相談者は当該商品を、「1989年前のアンティークの象牙製品とは思えず、仮に鑑別で象牙と判断されたとしても、日本製の象牙製品には無い削り残しがあるし、数年前のものであれば密輸品」と考えていたのである。
相談者は最初、商品が「象牙製品ではない」として返品を主張した。そこで事業者が、それなら鑑別する、と申し出たので了承し「象牙である」という判断がされたところ、それなら「密輸品である」から返金するよう求めた。そして、各専門家団体に確認し、事業者が苦し紛れに言ってしまった弁護士事務所にも何度も電話をし、それを返金の交渉材料にしていったのである。
この相談者の行動を「消費者として立派」と見るか、「そこまでやるか」と見るかは読み手に任せるが、行動力だけ見たら消費者の姿勢として一定の評価に値すると思う。
ただ、その後の行動が良かったとは決して言い切れないかと思う。何より当該商品を、自己の判断基準において密輸品と決め付けてしまっていた点が少々困ったところである。
せっかく苦労して(??)いろいろな「状況証拠」を並べて、すさまじい数のメールのやり取りとともに感情論に発展しつつも、事業者を返品に応じさせたのであるから、その後の交渉には、もう少し事業者に対しても気を遣う部分があっても良かったのではないかと思う。相手は個人が経営する骨董店の店主で、限りなく事業者意識が低いからである。
もちろん事業者においては、感情に任せず、送料・費用等の負担において譲歩の姿勢が欲しかった部分がある。相談者は、かなり思い込みの激しいタイプであったにも関わらず、少しだけでも相談室の問いかけに対し譲歩に応じたのである。それに対し事業者ときたら、オークション出品料10円まで相談者に請求するなんて、果たして如何なものだろうか。
トラブルが発生したときに、自ら行動して事業者と対等に交渉する消費者は、消費者としてはお手本的な存在であり、相談機関もそういった相談者は応援したい。ただ、そういった良い部分が隠れてしまうようなマイナス部分も同時にあわせ持ってしまうと、「小うるさい消費者」になり、疎まれてしまうのである。非常にもったいない。