第十三話: あっせん中は大人しくしていて下さい

 
相談事例から“今どきの消費者”

第十三話: あっせん中は大人しくしていて下さい

 相 談 内 容

 PC製品やパーツを扱う販売店より、マザーボードを組み立てキットのパーツの一部として購入した。組み立て完了し、作動確認後、メーカーサイト上のマニュアルに従って、BIOS(バイオス※)のバージョンアップを実行後、作動不良となった。

その後、確認すると、サイト上のマニュアルの不備が原因と考えられた。
そこで最初に販売店に申し出たが、販売店としての保証はできない、メーカーと直接交渉するよう言われた。メーカーとの交渉の窓口になってもらえないか、と依頼したが、応じられないといわれている。ただ、そのときに販売店のサポートの人に該当ページを見てもらったところ、メーカーのサイトの表記に不備があるという点に同意してくれた。

そこで、メーカーにメールで交渉したが、5日後の現在まで、自動によるメール受付以外に一切の返答が無い。メーカー側サイト上のマニュアル不備は明らかと思われるので、メーカーには早急な、製品の無償修理を希望している。

(※BIOS :Basic Input Output System  OSやアプリケーションがPCのデバイスにアクセスするための機能を提供するプログラムのこと。マザーボード上のロムに書き込まれている)

 処 理 概 要

 相談者にどのようなバージョンアップをしたのか詳細を確認したところ、メーカーのサイト上より、該当マザーボードの型番のページの表記にしたがってインストールを行ったとのことであった。 また、相談者の購入したマザーボードのバージョンは、【BIOSバージョン:ver.1.1】であり、【PCBリビジョン(※):REV:1.1】という商品であった。

(※PCB :Printed Circuit Board プリント基板 ※リビジョン:マザーボードのバージョン番号。改良されると番号があがっていく。リビジョン番号は型番とともにマザーボードの基板面に書かれている)

 そして、相談者から送られてきた当時のメーカーのサイトには、PCB 1.0Xとして、バージョン1.0、1.1、1.01、3.0の4種類のBIOSが配布されていた。
サイト上には注意書きとして、以下の記載があった。

・BIOSは、マザーボード(PCB)のリビジョンに基づいて正確なものをダウンロードして下さい。間違ったBIOSをアップデートするとコンピュータが起動しなくなる場合がございます。
・BIOSVer1.0から、BIOS Ver3.0へのバージョンアップをすると、PCが起動できなくなります。

相談者はPCB リビジョン1.1のマザーボードで、BIOS バージョン1.1であり、このサイトからBIOS Ver3.0にアップデートを実行してしまい、それが本来してはならないことが後から分かり、しかもサイト上に記載が無かったため、PCが起動できなくなるという障害が発生したとのことであった。
そして、メーカーからは理由は特に説明されず、今現在は、該当ページを一時閉鎖しているとのことであった。

 そこで、相談者はメーカーにメールを出しても返事が無い状況とのことであり、相談室のあっせんを希望した。相談室よりメーカーにメールを出したところ、「メールを受け付けた」という意味の自動返信メールの後、以下の返答があった。

・このマザーボードには「PCB Rev1.0X」および「PCB Rev1.1」の2種類が存在し、うち「PCB Rev1.0X」のみBIOS情報を公開している。
相談者が持つPCBはRev 1.1であり、サイト上の対象PCBはRev 1.0および1.0Xとなり、Rev 1.1(PCB1.1)用のBIOSはまだ更新されていないため配信していない。Rev 1.1対象のBIOSに関しては現在作成検討中であり、現在英語版のみ台湾本社サイト上にて配布している。

・また初期型「PCB Rev1.0X」に搭載されているBIOSは日本国内発売品ではBIOSバージョン1.0もしくは3.0のみ。
このことからも、「Ver1.0からVer3.0へのアップデートは不可能です」「Ver3.0からVer1.0へのアップデートは不可能です」という表現は適切であると考えている。

・公開していたBIOSアップデートページの対象はPCB Revは1.0Xであり、今回相談者のミスであることが明白なため、無償サポートは出来ない。必要であればBIOSロムは有料3500円で交換する。BIOSロムを送付し、相談者自身の手で交換していただくこととなる。

・もちろん製品自体の故障・不具合における、交換・修理対応であれば販売店を通して欲しい。

・メールサーバの関係か、相談者からの当初のメールがこちらに届いていなかったようだ。昨日「回答が遅れまして申し訳ございません」の返信をしているが、相談者から、その後も、かなり脅迫めいたメールが数通届いている。

・このような問題が相談者との間に起こったため、同様の問題が起こらぬよう、一時的にホームページのリンクをはずしている。修正等は行っていない。

 相談者は、『商品は確かにPCB Rev 1.1であったが、実際に市場で流通している製品であり、台湾本社の英語版のPCB Rev1.1に関する情報を記載していたと主張するが、日本語サイトの該当ページにはその台湾本社へのリンクはなく、それを参照するようにとの指示もなかった』『PCB Rev1.1のマザーボードでBIOS Ver1.1からBIOS Ver3.0にアップデートをすると、PCが起動できなくなるにも関わらず、その事の記載が一切ない』として、『早急な無償での修理、もしくは購入値段相当の金銭による保証をして欲しい』とのことであった。

 そこで、再度相談室よりメーカーと交渉したところ、メーカーより『どうしてもご納得いただけないようであれば、弊社より無償にてBIOSロムのみお送りする』との回答があった。

 相談者に伝えたところ、『メーカーが自分たちのミスを認めないのは納得できないが、この対応でよい』とのことであった。そこで、メーカーに対し、相談者より了承を受けたことを伝えた途端、相談者より続けて以下のメールが入った。

・常識的に考えて、Rev1.0Xは、Rev1.1より古い物になるが、メーカーの回答では、古いリビジョンのボードに最も新しいバージョンのBIOS Ver3.0がのっていると読めて不自然、記述が事実だとすれば、Rev1.0Xのボードでは、Ver1.0からVer3.0へのバージョンアップが可能ということになってしまい、ページの説明が初めから無意味ということになる。

・そうだとしたら、このようなウソを付くメーカーの対応には納得できない。もし、重ねてのミス、もしくはウソであったなら、部品の修理は当然で、それとは別に、このPCの故障によって被った損害に対しても、賠償を請求したい。

 そのメールを受け取った直後に、メーカーからも以下のような内容のメールが立て続けに入った。

・弊社は交渉に応じて対処していきたいと前向きに考えているし、新品交換なら交換をする。BIOSロムだけで良ければBIOSロムを送るが、弊社に対して下記のような侮辱的な文章を送りつけてきている。これに対して相談室ではどう思うか。(「嘘吐きか?どはずれた愚か者か?」といったタイトルの、事業者が受け取った相談者からのメールの添付)

・大変申し訳ないが、余計なことで企業イメージを損したり時間をとられたりしたくない。対処できる範囲ならば早めに処理していきたいが、新品交換、BIOSロム送付以上の要求なら弊社は応じない。新品交換でよければボードを弊社に送って「新品交換依頼」と明記してくれれば無償で新品交換をする。(「微笑」というタイトルの、事業者が相談者から受け取ったメールの添付)

 相談者は、相談室がメーカーとあっせんを行っている間も、メーカーに向けてかなり強烈なメールを送っていたことを知った。そこで相談者には、相談室があっせんしているうちは、メーカーと直接交渉はしないように伝えた。何かメーカーに言いたいことがあれば相談室に言うよう促した。
 またメーカーには、『相談者は当初はBIOSロムの送付で合意していたが、その後、そちらの説明に納得出来ず賠償請求を考えているようである』と伝えた。そして相談室の私見として『新品交換、若しくはBIOSロムの送付以上の対応は、今回特に必要ないのではないか』とも伝えた。

 そこで、相談者に改めてメーカーの今後の対応を伝え、損害賠償請求は難しいこと、今回は、新品交換かBIOSロムの送付での解決を検討するよう伝えた。

 解 説

 マザーボードといったPC用のパーツは、食料品や家電製品のように、一般的に誰でも購入検討をするとはいえない商品のうちのひとつと考えられ、購入層もある程度の専門知識を持ち合わせている。その割にはインターネット上で多く売買されており、販売店は実店舗を持つことが比較的多く、メーカーも国内、海外さまざまである。
 こういったパーツによっては、メーカーのサイト上よりアップデート用のプログラムが無償配布されている。それをユーザは自己責任の下、ダウンロードすることになり、万一失敗してもメーカーは責任を負わないのが通例である。

 なかなかとっつきにくい人にはとっつきにくい内容の相談なのだが、今回はメーカーのサイト上の表記に曖昧な点があり、それによりPCに不具合を起こしてしまった相談者がその回復を求めた、という内容である。

 さて、この案件でのあっせんにかかった日数は何日であったかというと、たった1日である。相談室がメールを返す暇なく、相談者、及びメーカーより次々とメールが届き、その総数1日で14通。その間にも相談者はメーカーに強烈なメールを送っていたのである。

 相談者にあっせん中は直接交渉を控えるよう強調しなかった点は落ち度であったが、メーカーの回答に対し何かあれば相談室に言うよう伝えてはいた。直接交渉できるのであれば、第三者機関は必要ないだろう。
 と言うか、具体的交渉は相談室に任せ、自分はメーカーに対し侮辱的な内容のメールを送りつけては気を晴らしている、といった感じであった。それでは事業者側の信頼を得られず、交渉が困難になってしまう。あっせん中の泣き言、恨み言は相談機関にいくらでも言っていいから(それで少しでも気が済むならお安い御用である)、その間、頼むから相手方には大人しくしていて欲しいと思う。

 あと、トラブルになる商品がPCパーツ等の場合、なんだか相談者に粘着気質が多いと感じている今日この頃である。