第十四話: 立ち直り

 
相談事例から“今どきの消費者”

第十四話: 立ち直り

 相 談 内 容

 欲しかったスノーボードのブーツをネット検索していたら、今回のショップがあることを知った。そこで、購入前にショップに「このメーカーでは普段23センチを履いているが、このブーツでもサイズが合うか」と問い合わせたところ、「ちょうどいい」との返事だったので15,000円にて購入することにした。

しかし商品が到着し試着したところ、何度履いてもきつく、無理やり履いたところ、きつくて痛くて涙がでそうになった。
それで到着2日後に、サイト上に書かれている返品の方法に従って、先にメールでお知らせしたが、その2日後にショップから返信がきて、「返品できないと書いている」とのことだった。

不思議に思い確認したが、確かにサイト上には、「商品到着後7日以内であればお客様の送料負担で返品可能」とあったので、その箇所をコピーしてショップにメールで伝えると、「その文章はもう古い、いい加減なことをいうな」と返事が返ってきた。

どうしてそんな事を言われないといけないのか、このサイトを見ながら暫く悩んだ。するとTOPページから【返品】の箇所をクリックしたときの返品の条件と、わたしが購入した商品が載っているページの下に書かれてある、【配送方法はここをご覧ください】という文章をクリックしたときに書かれている返品条件が全く異なっていたことがわかった。
電話でショップにこのことを説明したが、「返品できるわけがない」の一点張りである。その上、「このホームページを作成した業者が悪い」とまでいう始末である。

 処 理 概 要

 相談者はアドバイスが欲しい、とのことだったので、まずは相談者が指摘したページの返品に関する記載内容を確認したところ、【サイズが合わなかった=返品の場合 】のところに、確かに『送料お客様ご負担で、到着後7日以内/未使用の場合』と記載があった。
 ただ、他にも返品に関することが記載されたページがあり、そこには『お客様都合による返品は出来ない』と記載があった。

そこで、ショップ側が例えその文章が古いと主張しても、その表示をそのままにしていることはショップ側の落ち度と考えられること、1度、サイズの適正についてもショップに確認していることなどを考えると、このページの記載内容通りの対応を主張することは可能と伝えた。そして、具体的な交渉方法と、もし、交渉が困難になった場合は、再度相談するよう伝えた。

 その後、相談者からは連絡がなかったので終了案件としていたところ、1ヵ月ほど経ったところで、相談者からメールが入った。
 その内容では、サイト上の返品にかかる記載は既に変更されていること、ショップに電話で抗議をしたが未だ返品には応じてもらえず、メールを出しても返事がないとのこと、もう今後何をやっても応じないであろう、といった、あきらめの言葉がずらずらと書かれていた。
 そして、ショップとトラブルになった後、パソコンに電源を入れようとするとショップとのメールのやりとりと、電話でのあのバカにしたような対応を思い出し、悔しさと腹立たしさで涙が出そうになるので、なかなかメールも読めず返事が今日になってしまった、とのことであった。

 その後も相談者からメールがあり、やはり、いまだにふと思い出して悔しくてたまらず、もしショップがミスを認めて心から謝ってくれれば、無理に返品を要求するつもりもなかったが、あの対応は訴えてやりたいくらいであること、ただ、今回は悔しいけどいい勉強になったと思って諦める、とのコメントがあり、そして、当分ネットショッピングは出来そうにもない、とのことであった。

 そこで相談者には、「今回理不尽な思いをしたことは非常に残念であったが、これだけでネットショッピングを悪いものであると決め付けてやめてしまうのはもったいなく、落ち着いたら、またインターネット取引を是非利用して欲しい」旨、回答した。

 その後しばらくして相談者からメールがあり、「今回のことだけで、インターネットショッピングの全てが悪いという判断をされるのは少々もったいないと思う」といった言葉を受けて、思い切ってこのブーツをオークションに出品したら、13,500円で落札してもらい、解決したとの報告があった。
そして、ショップとこのまま闘っても最終的に返品出来るかどうか分からなかったし、嫌な思いだけで終わるより、少し損はしても出品して喜んでもらえる方と出会えて、今は良かったと思っている、とのことであった。

 解 説

 この相談者は、よく「涙がでそう」になる人であり、ダメージを受けやすい気質の人であったが、立ち直りは結構早かった。

 取引に関して言えば、返品に関する記載がショップのサイト上に複数あり、そのページにより返品特約の内容がかなり違っていた。(ちなみに微妙に違うケースはよく散見する)
ただ、取引する消費者側から見たら一番有利な内容を信じたくなるだろうし、それでトラブルが発生すれば、そのような曖昧な書き方をしている事業者のほうが責任を取るべきではないかと思われた。

 ただ、それにもかかわらず、ショップが強硬な姿勢を崩さず、また相談者にかなり酷い対応をしたために、相談者がすっかり参ってしまい、一時的に、パソコンを立ち上げることも、ネットショッピングをすることにも拒否反応を示すような状況に陥ってしまったのである。
こちらとしても、インターネット取引を基本的には推進する立場にあったので、「そうそう、こんな危険なインターネット取引なんてやめたほうが良い、今度からは実店舗で商品確認した上で購入してくださいね」なんて助言は出来ず、消費者には、「リスクがあることは否定できないが、インターネット取引のほとんどは問題なく行われており、非常に便利でメリットも多大なものである」と考えて欲しいと思っている。

 そして、精神的ダメージを受けた相談者に対し、メール相談では、なかなか「なぐさめ効果」がないところが歯がゆいのである。相談業務は時にカウンセラー的な役割を求められるときがあるが、逆に電話や面談方式であれば、その部分はカバーしやすいのかもしれない。仮にそのとき、なかなかうまいことを言って返してあげられなくても、黙ってうなずいて真剣に聞いてくれる人がそこにいてくれる、時間を共有している、というだけで、相談者を落ち着かせる効果があると思われるからである。
しかし、メール相談は一方通行なので、どんなに真剣に読んでいたとしても、当然のことながらそれだけでは相談者には何も伝わらない。その点、メール相談でカウンセリング効果を持たせるには、独自のテクニックが必要なのかもしれない。