第十六話: どちらも『相談者』

 
相談事例から“今どきの消費者”

第十六話: どちらも『相談者』

 相 談 内 容

 ネットオークションで個人が出品していたレーザー美顔器を購入した。届いて翌日使用したら強い刺激を感じ、すぐに顔に使うのは怖いと思い二の腕でテストした。翌日ミミズ腫れと掻き傷のような症状を起こし、機械をよく見てみたらレーザーを照射する接触レンズにごく小さなキズを発見した。出品者にメールで連絡し返品の依頼をしたところ、「個人差」「中古品」という事で返品を拒否された。

ただ、本当に「個人差」が理由なら、自分にも非があるかもしれないと思いメーカーに検査を依頼しようと思った。出品者にその旨を伝え、もし確実に不良品だった場合は取引を見直して欲しい旨を伝えたら、相当気分を害したのか、「1週間以上たっている」「評価を付けた時点で取引は終了している」等々、折れる気配がない。
何度かのメールのやり取りの末、逆ギレのように「返金します、商品の返送は結構です」という内容のメールがきた。

 返金してもらって商品は返さない、などということはしたくないが、逆ギレされての解決では気分が悪く、また、かかった送料や手数料等、細かい事もあるので、第三者からアドバイスが欲しい。

 処 理 概 要

 相談者は、相手方とのメールのやり取りを送ってきていたので、その内容を確認した。相談者からの「ノークレームノーリターンは承知の上だが、調べたら修理に1万円以上かかると聞き、故意では無いと思っているが、返品に応じてもらえたら幸いなので相談したい」といった内容のメールに対し、相手方は「使用上の刺激は個人差であり、不良品ではないので、どうしようも無い」といった返信があった。それに対し相談者が、「送料の迷惑をかけるつもりは無かった、ただ皮膚にキズがついたので、それならばメーカーに問い合わせしてみる」とあり、さらに1週間後、相談者より、「さらに皮膚に疾患が出来たので、やはり使用できる状態の商品では無いと思う、メーカーに調査を依頼するので不良品であれば返品・返金して欲しい」と伝えたところ、相手方より「事前に質問があれば対応した、1週間経ってから改めて言ってくるのはおかしい」となり、その後は揚げ足取りのようなやり取りになっていた。

そこで、既に返品ということで双方合意していることもあり、相談者に対しては『相手方の責任において商品を返品・返金するのであれば、送料等、かかる費用に関しては出品者に負担を求めることは可能だが、個人間取引は特に感情論に発展しやすいので、それとは別に互譲の精神も大事である』と回答した。その上で、当事者間で解決がつかなかったら、再度こちらに知らせるよう伝えた。

 その回答を出した数時間後、別の新規相談が入った。その内容は以下の通りであった。

【オークションで美顔器を出して落札された。返品不可と記載しており評価も良くつけてもらったので取引終了と思っていたが、翌日小さな傷が商品にあり痛みを感じるので、と返品要求があった。返品不可いうことでの入札と、レーザー美顔器ということもあり、見えないシミなどに反応してレーザーを照射するものだから不良品とも一概にいえないのでは?と思いその趣旨を相手方に伝えた。その時点で納得したようなメールをもらい終了と思っていたが、一週間後「明らかな欠陥があった場合キャンセルは無効」と返金を要求された。もう商品を戻してもらう気はなく返金する旨伝えているが、今は何を言っても怒る状態。アドバイスが欲しい】

 この内容より、これは相談者の相手方からの相談だとは確信したが、この相手方と思われる相談者の氏名が、元の相談者が相手方として記載していた氏名(名字のみ記載されていた)と異なっていたのである。
この時点で、この相手方に対し、既にもう一方の当事者からも相談を受けていることを言い出すことが適切かどうか悩んだ。相談内容とタイミングから、明らかに当事者同士が、それぞれこちらに相談を寄せてきているものと思われたが、氏名が違うので、もし万が一にも別人だったら問題であり、また、双方においてアドバイスを求めてきているということは、こちらに相談をしていることを、もう一方の当事者には知られたくないと思っているのかもしれない。

従って、このような理由から、両当事者から同時に相談がきているからといって、すぐにあっせんを開始できるのではないことに気づき、とりあえず、双方に助言を行って様子をみることにした。
 双方には、それぞれ気持ちは分かるが感情的にならず譲歩の方向で考えるよう助言していった。特に相談者に対しては「返送は要らない」という相手方に対し返品するのであるから、その返送料の負担を相手方に強制することは困難であると思われた。また、落札時にかかった諸費用についても出来る部分は検討してみるよう伝えた。

 その後、相談者からは『「互譲の気持ち」が大切ということなので、往復分の送料・相手の振込手数料・オークション手数料は自分が負担して返品した、今後高額な落札は避けようと思うが、相談していなかったら少額訴訟をしていたと思う、相談して良かったと思う』という報告があり、同時期に相手方からも『何とか返品で解決がつきそうである、文字でのやり取りが難しいことが良く分かった、今後は個人的主観で見ることはやめようと思う』との報告があった。その際、偶然に相手方の報告より分かったことは、相談者には旧姓を使用して連絡を取っていたということである。

 最後に相談者より入金確認の報告を受けて終了とした。

 解 説

 相談内容はオークションでの特定物に関する、ありがちな相談であったが、当事者双方から個別に相談があり、あえてあっせんではなく、当事者双方にそれぞれこちらからの助言にて歩み寄らせ、結果的には当事者同士で解決した例である。
 相手方の名前が違っていたことにより本人特定が出来なかった点と、既に返品することに関しては合意しており、それにかかる諸費用に関する負担の問題であったので、これ以上感情的なやり取りにならないよう注意をすれば大丈夫だと思われたことにより、このような方法を取ってみたのである。ただひとつ、相談者の皮膚の疾患が気になっていたが、その点について相談者は、その後あまり主張はしなかった。

 相談者は遠慮しがちにものを言うタイプで、しばらくは遠慮がちに相手方にものを言っていたが、納得できない相手方の応対に対し、だんだん腹を立ててしまった、といった感じであった。相手方は逆で、最初は強気であったが、相談者がだんだん強く出てくるようになったため不安になってしまった、といった感じであった。最後には、双方とも同じぐらいの強さで交渉ができていたのだと思う。

 個人間で取引した中古品に関するトラブルは、あっせんに入ったとしても、なかなか一方を説得するような方法はとれない。手持ちの中古品を誰かに買ってもらおう、程度の出品に対し、プロ並みに説明せよ、と言うのも酷だ。ネットオークションは、ある程度のリスク覚悟の上でやり取りしている部分もあり、だからこそ、評価システムがあるのである。

「100回やれば1回ぐらいはハズレもある」的な考えでオークションに参加している人ばかりなら、トラブルももう少し減るのだろうが、ただ、それもモノによるだろう。書籍類やファッション関連ならともかく、このようなレーザー美顔器のような機器類や、使用状態や不具合によっては、身体や財産に影響を及ぼすような商品の場合は、単に「ハズレ」では済まされない。出品者側においても、思ってもいないトラブルに巻き込まれる可能性がある。そのモノの違いをもう少し意識して出品してもらえると良いのかもしれない。