第二十話: メンタルケア

 
相談事例から“今どきの消費者”

第二十話: メンタルケア

 相 談 内 容

19歳女性。
広島にある事業者のサイト上にて「開運ネックレス」が7日間無料で試せるとあり、ネックレスのデザインが可愛かったのと、無料という言葉に惹かれてインターネットから申し込みをした。特に承諾の返信メールが来ないまま商品が到着した。ただ、商品はあまり気に入らなかったので7日目に送り返すことにした。送料自己負担で送り返したら、数日後また同じ事業者から商品が送られてきて、これは注文した覚えがないので受け取り拒否をした。

そしたら自宅ポストに手紙が入っており『7日間無料の期限が1日遅れた為に返品は受け付けられません。無料キャンペーンは7日間以内に返品をしていただいたお客様だけです。お客様が受け取り拒否をしたため、お客様の入金が確認できたらまた発送させていただきます』と記入されていたので、ビックリしてすぐ事業者にメールをしたが、私が何を言っても『購入してもらわなきゃ困る』といったような態度をとられ、どうすればいいのかわからなくなった。

母に相談して母が事業者に電話をしたら、いきなり電話対応の方に怒鳴られたらしい。すごく悩んで警察に相談したら、警察から事業者に電話をしてくれた。事業者は『前に利用した事があるから今回も買ってくれると思った』と言ったようである。最終的に警察の方に「無視していい」といわれた。無視していたらしばらく何もなかったので少し安心していたら、今月、葉書が2通同時に届き、1通は事業者から「債権譲渡通知書」、もう1通は「G債権管理事務所」からだった。
支払い期限を無視すれば裁判になるといった内容が記載されていた。今の支払い請求額は21,000円。「G債権管理事務所」をインターネットで調べたが、この名前の会社は無い。

 処 理 概 要

 7日間無料に関しては、どこからどこまでを7日間として算出するのか、サイト上に具体的なことは書かれていなかった。
また、債権回収業は法務省認可の株式会社でなければ出来ないこと、法務省のサイト上では、相談者に届いたハガキに書かれている「G債権管理事務所」と似たような名称の債権回収業者はあったが、それと同一ではない可能性が高いことを伝え、そうであれば、その「G債権管理事務所」からの請求には一切応じる必要は無いことを伝えた。
 そして商品は送り返しており、未成年者であれば、事業者のほうに未成年者取消しの書面を出すことも今後考えられると伝えた。

 すると相談者からメールが届き、『G債権管理事務所からメール便で封筒が届き、中身を読んだら、「貴方の家に回収業者が伺います」と書かれていた、さらに自宅の地図があり、その紙には大きな文字で「金払え!」とか「払わないつもりで買ったのか!この詐欺師」と書かれていた』とのことであった。請求額は7万円と変わっており、このまま無視するべきかどうか悩んでいるとのことであった。
 その文面及び請求額より、もう相手方はマトモな事業者とは考えられないため、このまま請求には応じず無視し、自ら連絡をとらないこと、本当に自宅に来たら再度警察に相談するよう伝えた。

 相談者からは『あれから恐怖で、薬無しでは眠れなくなってしまい、非通知で自宅に着信履歴が何件も残っていて、身の危険を感じるようになったので、警察に母と一緒に相談しに行った、手紙も見せたところ警察では「嫌がらせにしてはちょっと、しつこいよね・・・」と相談に乗ってくれて、事業者に注意の電話をしてくれた、母と「これで少しは安心だね」といっていたが、次の日警察から電話があり、事業者と話をしたら「うちの会社は今年できたばっかりの会社だから、そんな事はない」と言ったらしい、そして警察が「彼女は未成年で契約していたわけで、脅迫文とか送りつけたり精神的に追い込むやり方をするな」といったら「ご両親の許可を得て契約しています」とウソを言ったらしい、警察の安全課の方から「会社側がオーバーアクションをかけてくるかもしれないから、気をつけて、何かあったら家族の愛情で支え合って乗り切ってくだい」と言われてまた不安がつのってきた』とのことであった。

 そこで、相談者が注文時にその入力フォームの生年月日に成年と偽らないで正しい生年月日を入力しているのであれば、事業者側では未成年者との契約であることは理解していると考えられるため、このような事業者に対しては念のために未成年者取り消しを主張しておいたほうが良いと伝え、その方法をアドバイスした。ただ、あえてこのまま何もせずに無視を続けても構わないとも考えられたので、どちらの方法をとるかは相談者にて判断するよう伝えた。
 相談者からは、生年月日は間違いなく自分のものを入力していること、事業者へは未成年者取消しの書面を出してみる、との返答があった。

 再度相談者から連絡があり、『ポストに葉書が届いており、誰が送り主かが分からない、文面には「お電話が通じなかったのでハガキにて連絡しました、お知らせしたい事があるので至急下記に連絡ください」と書かれていて、電話番号が新宿の「第二事業部」と書かれていた、もしかしたら事業者、若しくはG債権管理事務所が別に委託してやっているのでは?』ということであった。
 こちらでは、送り主が分からないようなハガキに対し、連絡しなおす必要は無い旨、伝えた。

 その後、相談者より『引き続き督促のハガキに嫌がらせのFAXが届き、初めは無視と強気でいたが、もう精神的にいっぱいいっぱいになってきてしまった、外に出てもマンションの前に止まっている車のナンバーが広島じゃないか気になってしまい、ひきこもり状態で、外にでるのも恐くなってしまった、内容証明郵便で出した未成年者取消し通知に対しても「20歳と年齢を偽って購入した以上代金は支払っていただきます」という文を送ってきた、年齢を偽った覚えはなく、電話番号を受信拒否しても違う番号でかけてきて電話も受け取れない、もう無視し続けることも無理かもしれない』とのメールが届いた。

 そこでこちらでは、少なくとも、このような請求額で“事業者”が損得勘定抜きで相談者に対し直接危害を加えるような行為に出てくることは考えられないこと、未成年者取消し通知を出したのであれば、それ以上事業者側からの連絡に反応しないこと、恐さのあまり万一支払いに応じてしまったとしても、今後請求がストップする保証は一切無いことを助言し、極端に不安がることは無いと伝えた。

 解 説

 この相談者は、こちらで相談を継続している最中に、文中に出てくる警察、及び別の2つの相談機関に継続して相談をしていた。それだけ不安だったのかもしれない。ただ、今回はかなり親身になって相談に応じていた警察にも、最後のほうではあまり相手にされず、他の相談機関からも「そこは悪質だから注意するように」とか「未成年者取消しの方法は自分で調べるように」「何かあれば警察へ」といった助言しかなされなかった、とのことを言っていた。最後までこの相談者に付き合ったのはこちらだけだった、ということである。

 確かに、この事業者はかなり悪質で、その請求のしつこさにも脱帽モノであるが、このような内容に対する回答は「無視しなさい」でしかなく、それを同じ内容で相談され、何度も繰り返して回答するのは、さすがにどこの相談機関でも、ある意味うっとうしかったのかもしれない。また、不当請求に関する同様の相談が多数寄せられていた頃は、そればっかり回答してきて、うんざりするようなこともあったかもしれない。相談者は必死なのに、それを受ける相談機関は「またそれか」と冷めている。
一連の多発した不当請求の相談は、皮肉にもひとつの相談において、その相談者と相談機関との間にて、はじめからかなりの温度差が発生してしまっているケースがあることに、気が付かせてくれたのだ。

 不当請求に関して何度も相談を繰り返すような相談者にとっては、その不安感を何とかしてほしい、という部分のほうが大きく、もう理屈は充分分かっているはずだから、後は全てメンタル的なフォローになってくるのである。発生したトラブルについて、その対処方法を助言すれば終わり、とはならない相談者もたくさんいる。
 そのような相談者のそばに寄り添うことは物理的にも不可能だが、不安があればいつでも面倒がらずに返答してくれるところがある、ということで普段安心していられるのであれば、その役も請け負おうと思う。なので、こういった相談者には、本人が満足するまでお付き合いすることにしている。回答文末には「またいつでもご連絡ください」と添えて。