第二十一話: 二重の言葉の壁

 
相談事例から“今どきの消費者”

第二十一話: 二重の言葉の壁

 相 談 内 容

 フランスのパリにあるショップサイトからCD付きの本(32EUR)をクレジットカード決済にて注文し、注文後2週間ぐらいで一度商品が届いたのだが、届いた商品にはCDが付属していなかった。
その後、こちらからショップにメールしたところ、「いったん、その本は送り返してください」のようなメールが返ってきたので、送料こちら負担で商品を送り返した。

その後、ひと月ちょっと過ぎても商品は送られてこない上、ショップからは連絡がないのでこちらから再度メールをしたところ、「来月になったら調べてみます」というような返事が来た。しかし、その後、やはりひと月以上すぎても連絡がない。
私自身、英語でのメールのやりとりが得意でないということもあるのだが、適当にあしらわれているような気がして不安になっている。
 

 処 理 概 要

 サイトを確認したところ、トップページはフランス語表記、右上にイギリス国旗が表示され、そこをクリックすると英文の表示に変わるシステムになっていた。

 相談者に対し、今後どのような解決を望むのか訊ねたところ、「商品発送を希望している」とのことであった。
相談者は助言を希望したが、相談内容では「英語でのメールのやり取りが得意でない」とのことだったので、今までショップとは意思の疎通が図れていたのかを確認するために、ショップとのやり取りしたメールをこちらに送るよう伝えた。

 相談者よりやり取りメールが送られていたので、その内容を確認したところ、相談者、ショップともに、1回のメールで英文たった3行ほどのものを、何度かやり取りしていた様子がうかがえた。
 その内容を確認すると、相談者の英語は言う通り、本当にたどたどしいものであったが、相手もフランスなので、使う英語が文法的に、かなりおかしいところが見受けられた。結果として、お互いに具体的な話し合いではなく、単にニュアンスをとりあっているようなやり取りになってしまっているようであった。
相談者は今回、ショップから適当にあしらわれている、と感じていたが、よく解釈すれば、相手方も英語に不慣れなので英語でのやり取りを極力さけたがっているように感じられた。

 そこで相談者には、それら状況を伝え、可能であれば今後はフランス語でのやり取りを試みてみること、クレジットカード会社にも相談してみることなどを助言した。

 解 説

 基本的に日本語表記でないサイトと取引するのであるから、通常、やり取りの際には、ショップ側が使用する言語で行うことが前提となる。

海外とのトラブル相談を受ける際は、サイトも英語のことが多いが、そのときの相談者の英語レベルも、まさに十人十色であり、特に相談者の英語レベルに少なからず問題あり、と判断されるようなケースでは、相手方とどのようなやり取りを行ったのかを、必ずこちらにて確認することにしている。文法上、明らかにおかしい文章を相手方に送り、そのために相手方からきちんとした回答がもらえなかったり、返事そのものがもらえなかったりしているケースが散見されるからである。そうすると、その後、こちらで直接あっせんに入る際に、まず、そのフォローから入る必要が出てくるのである。

海外でもネットショップから注文するだけなら大体共通で、買い物カゴに商品を入れて、注文フォームに届け先を入力すれば注文が完了するのだから、英語であれば中学生レベルでも可能である。その他送料や返品条件等に関しても、大体何が書かれているかぐらいがわかる程度であれば充分で、ウェブサイトの翻訳サービスもインターネット上にはいくらでも転がっている。
しかし、何らかの事情で相手方とやり取りが必要になった場合を想定して、本当は相手方の使用する言語に自信がない場合は、もう少し勉強してから取引して欲しいのが本音である。

 ただ、上記の場合は、あくまで相手方の母国語の場合であり、相手方も自分たちが母国語として使用していない言語で対応しているようであれば、結果、実は双方において決して得意とはいえない言語で、お互いやり取りすることになる事態も想定できる。それでは意思の疎通なんて、とても図れたものではない。

 また、こちらでも海外ショップサイトとのトラブルに関しては、あっせん等のお手伝いをすることは出来るが、原則的に全て英文である。相手方の使用する言語が英語でなければ、相談者に日英通訳が必要なように、相手方にも通訳が必要になる。これでは交渉は現実的に無理であり、こちらでのサポートにおいても限界である。後は、各国の紛争処理機関のネットワークがうまく機能するような仕組みが構築されることに期待したい。