第二十三話: 常識的に考えて

 
相談事例から“今どきの消費者”

第二十三話: 常識的に考えて

 相 談 内 容

 先日、スポーツ用品を販売しているショップサイトにて、マウンテンバイクを注文したところ、サイトよりオーリプライされたメールの中に「48時間以内に在庫内容を送信致します」との記載があったのでショップより連絡を待っていたが3日たっても連絡がなく、こちらからの在庫や送料の提示催促メールにも一切返事がなく音沙汰がなくなってしまった。

事の始まりは検索サイトグーグルで、何とか安い物をと探そうとして、また何か懸賞はないものかと、検索ワードに『MTB タダ』と入力し検索したら、一番上に無料プレゼントやその他のリンク集があり、そこに当該サイトが掲載されていた(キャッシュ表示)。
何かコメントもなされていたようで、どういった所なのだろうか、と訪問した所、価格に『00,000円』と書いてある物が多数あった。
これはプレゼントだろうと感じ、私は個人情報を入力し契約した。確認画面のスクリーンショットも保存し、サイトより確認メールも届いた。しかしその後、ショップより一方的なキャンセル、と伝えられ非常に困惑している次第である。

個人情報を入力する事は普段でも抵抗があるのだが、こういったことがあると抵抗が恐れにかわってしまう。商品の引渡し、契約を履行してもらうには、どのように行動したらよいのだろうか。

 処 理 概 要

 ショップからどのようなメールが届いているのか、また注文時の状況を確認するため、相談者より注文時の画面ややり取りのメールなどの資料を取り寄せた。

 資料を確認すると、ショップサイトでは、当時いくつかの商品の販売価格が「00,000円」といった表示になっていたらしく、そこから買い物カゴに入れて注文をすると注文が出来るようになっていたとのことであった。
 相談者からは4点の注文がされており、従ってショップからは4通の自動返信メールが届いていた。商品に関する記載内容は大体以下の通りであった。

<商品番号 ***>
販売価格 : 00,000円 (通常価格 : 165,000円)
消費税別 / 送料別
数量 : 1
小計 : 0円
商品代金計 : 0円
消費税 : 0円
合計 : 0円

 そして、ショップからのキャンセル通知の後、言われた内容は、『商品の000000円表示は、メーカーの意向により販売価格(お値引き額)の表示が禁止されている為、また、システム上、誠に勝手ながら 000000円表示にさせて頂いております。(上記内容は、他ページでご案内させて頂いております)分かりにくい表記となっており、混乱を招く結果となってしまい大変申し訳ございませんでした』とのことであった。

 そこで、ショップサイト上では、当時、「懸賞」や「プレゼント」といった表記はなされておらず、ページ上には、当該商品の広告も、他の商品と同じように並べられていたことを考えると、これら注文された商品についてのみ、ショップが0円にて販売するというのは通常考えられないことと思われること、もし「懸賞」や「プレゼント」であるなら、「抽選で何名様にプレゼント」等の表示がされているのが通例と考えられること、そもそも「00,000円」と言う表示自体が不自然であると言うこと、したがって0円表示は、ショップ側の「何らかの間違い」を予め認識可能であるとして、注文に基づく商品引渡しの主張は困難ではないか、と伝えた。

 解 説

 ショップが「00,000円」と表示していたのは、もちろん0円で販売することが目的ではないが、価格の表示ミスでもなく、「販売価格はウェブ上で公開できない」という意であったようである。それなら「詳しくはお問い合わせください」とか書いておけば良いものなのに、お騒がせなショップである。「上記内容は、他ページでご案内させて頂いております」と言っても、その他ページを見なければ、その表示の意味が全く分からないのも不親切だと思われるし、何より、注文を行えば自動的に確認メールが飛んで注文が完了するようなシステムのままにしておいたのも、ショップの落ち度と言える。

 しかし、注文者においても、普通何でもない商品広告ページに「00,000円」の表示があれば、これは何かの間違いだと容易に気が付くものと思われるし、それがたまたま注文できてショップからキャンセルされたとしても、それをまた、強引に送料だけで商品を渡すよう主張することは認められないと思われる。

 今まで過去にさまざまなケースの価格等の誤表記案件を受けてきて、その契約そのものが、まずは成立しているか否か、また契約成立後も事業者側の錯誤による無効が主張できるのかどうか、一つ一つ丁寧に見て判断をしてきた。広告は人間が作るものであるから、何らかの理由により表記ミスが発生することは避けられないと思われるが、最近は某匿名掲示板の「祭り」のようなオオゴトに発展するようなことはなくなってきている。

 今回のケースは、元々販売する価格を間違えて表示していたという事例ではないが、しかし「00,000円」と表示されていたからタダで商品を引き渡せ、という主張が通るかどうかは、もう常識的に判断してもらいたいと思う。