第三十三話: 後腐れなく終わることを考えて

 
相談事例から“今どきの消費者”

第三十三話: 後腐れなく終わることを考えて

 相 談 内 容

 ショップが出品するオークションで、“オニキスダイヤモンドリング”を2,100円で落札。“Pt仕上げ(925)”と表示されていたので入札をしたのだが、質屋や買取屋に聞いたところ、「こちらの指輪はシルバーかメッキでダイヤモンドの反応がない」と何件かの買取屋に言われた。

 本当の表示をしなかったのだから、ショップから代金を返金してもらいたいのだが、商品代2,100円と送料500円の計2,600円を請求したい。しかし返金要求をしたら、2,600円ではなく、1,134円しか返金しないとのことである。

 処 理 概 要

 事業者からの返信メールを入手すると、以下の主張であった。

 『中石部分には「Moissaniteダイヤ:0.4ct」とかかれており、材質には「Pt仕上げ(925)」と書かれています。
貴方様におきましては「普通はダイヤモンドと言えば、天然のダイヤモンドです」とのお考えなのですが、「Moissaniteダイヤ」は、基本的にはイミテーションダイヤの一種として、その名称が使用されています』

 『返品であれば今回は落札者の都合により返品ということなので 下記の料を請求させていただきます。
1、落札料:2,100円x5%=105円
2、出品料:21円
3、注目料:630円(2日間分)
4、振込手数料:210円
合計:966円
上記料金1から3はすべて当方がオークションに支払った実費です。
返金金額:2100円-966円=1134円です。
商品届く確認次第(未使用)1週間以内に返金します。
また 今回は着払いしないください。着払いなら 受取拒否します』

 そこで、こちらにてオークションサイトを確認すると、商品説ネイには、確かに『品名:アメリカ産Moissaniteダイヤモンドリング。材質:シルバー925 PTメッキ』と書かれていた。さらに、『落札者都合による返品の際に、システム利用料(落札価格の5%)や振り込み手数料を引いた上での返金』という記載があった。

 「Moissaniteダイヤモンド」を調べれば、イミテーションダイヤモンドの一種であるということは、大体分かるようではある。0.4カラットの天然ダイヤモンドやプラチナを使用した指輪であれば、それが2,100円で購入できるというのも、一般的には考えにくい。しかし誤解を避けるためにも、「これはイミテーションである」という説明が、別途きちんと欲しいところである。

 そうすると、説明が分かりにくいという指摘や、あたかも優良に見せかけて販売をしていた、という主張も可能かと思われたが、しかし一方、明確に「天然ダイヤモンド」と表示して、実はイミテーションダイヤを販売していた、というケースでも無く、今回の返品を事業者都合として、取引金額と送料全ての返還を必ず主張できるとまでは言い切れないようにも思われた。
 ただ、オークション画面には、落札者都合による返品の際、システム利用料や振り込み手数料が差し引かれることは記載があるが、書かれていない出品料21円や注目料630円の負担については記載が無いので、少なくとも、これを相談者が負担する必要は無いと考えられた。

 ただ、返品で解決することに関しては、既に双方合意がなされているため、取引金額が少額な場合、その返品にかかる費用負担により交渉が決裂して解決できない可能性があること、今回のケースでは、どちらか一方が悪いと決め付けず、双方において多少の譲歩を行い、早期解決を目指したほうが良いケースであることを付け加えて、上記内容を伝えた。

 すると、相談者より、『こちらで言われたように“書かれていない出品料21円や注目料630円を負担する必要は無いと考えます”と事業者に伝えたところ、1,785円を返金してくれることになりました、本当に感謝しております』との返信があった。

 その後相談者より、『事業者から1,785円の入金が確認できた』との報告があった。
 そして、『今後、事業者に対しオークション評価をするのだが、こういう悪徳業者に対して、今後ほかに犠牲者が出ないために、非常に悪い出品者と評価したい、ただ、どういうメッセージなら、今後犠牲者が出ないようになるのか、適切なコメントが分からない、適切だと思うメッセージがあったら聞きたい』との相談があった。

 ただ、こちらで相手方事業者の獲得している評価、及び評価欄を見ると、同様の出品物に対して評価をしている他の落札者は、当該商品がイミテーションであることを理解のうえで取引を行っているのがほとんどであるように見受けられた。
 そうすると相談者の、“他の被害者が出ないように”という考え方は分かるが、そこで下手に正義を主張しても、かえって「Moissaniteダイヤモンド」や「シルバー925 PTメッキ」に対して、相談者の認識が無かったということのほうが問題視される可能性があること、また、一応、双方合意によりすでに解決した問題であるから、それをさらに評価欄で相手方事業者に鞭打つような評価をすることは、お互い嫌な思いを引きずり、また報復評価を受け後悔する可能性があるので、それは避けるべきではないか、と伝えた。

 すると、相談者より『自分の気持ちも落ち着いたので悪い評価はしないことにした、おかげで気持ちにも余裕ができた』との返信があった。

 解 説

 そもそも購入したばかりの商品を、相談者はどうして質屋や買取屋に持ち込んだのか、その点は定かではないが、そこで初めて、これは自分が思っていたものと違う、ということに気がついたのである。

 使われている宝石がイミテーションであるかどうかという点は、購入するに当たり、特に重要な点であると思われるので、事業者においてはきちんと明記するべきである。「ジルコニア」といわれれば、それが天然ダイヤモンドを指すと思う人はほとんどいないと思われるが、「Moissaniteダイヤモンド」と表記すれば、「ダイヤモンド」と表記している以上、天然のダイヤモンドと間違えて購入するケースも考えられる。
 その点、今回のケースは、単なる相談者側の勘違いによるもの、とは決め付けられないと思われる。なので、確かに相談者の主張は理解出来るのだが、だからといって虚偽の説明にて売りつけられたわけでも無く、自らの認識不足であった部分も差し引いて、最終的には合理的な範囲での譲歩を促した。

 評価欄に関しても、「他の犠牲者を出さないため」といいつつ、本当は自分の感情の問題である。感情に任せて評価をすれば、必ず後悔することになる。こんなことで他の犠牲者のために犠牲にならなくても良い。場の雰囲気を読むことも必要であり、解決したなら、なるべく後腐れなく終わったほうが幸せである。