第四十四話: 物証が全くないものは・・

 
相談事例から“今どきの消費者”

第四十四話: 物証が全くないものは・・

 相 談 内 容

 (1)
 11月20日に、「価格.com」にて、「“翌年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ1ユーザ」の最安値の商品を選択し、P社サイトへジャンプし、該当商品を注文した。
 ところが、11月25日に自宅に送られてきた荷物を開封してみると、箱の中には「“今年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ」が入っていた。

 同日すぐに、P社に電話を入れると、「“翌年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ 1ユーザ」は取り扱っていないと言われたので、返金&返品をお願いすると「如何なる理由でも、返品は受け付けていない」と言われた。
 「“翌年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ 1ユーザ」との交換、または返金&返品を要求したい。

 

(2)
 ネット予約をした旅行をキャンセルしたはずが、実際にはキャンセル処理されておらず不泊扱いとなり、不泊代金として計¥45,150を支払うよう求められている。

 経緯
8月12日 : 9月2日宿泊予定で予約 ¥23,100-
8月13日 : 9月1日宿泊予定で予約 ¥22,050-

 その後、旅行先を、軽井沢方面に変更したため、8月20日・21日のいずれかで、同サイトからキャンセルをおこなった(日付がハッキリしない理由については後述)。
 そして、9月3日に、Eメールを確認すると、上記2件の宿泊予約が「不泊のためキャンセルされました。」という通知がサイトより届いていたため、翌9月4日に、電話にてキャンセルしたはずである旨申し立てた。

 9月3日電話対応時点でのサイトからの話では、キャンセル操作をすると、キャンセル確認メールが届くとのことだったが、当方には、メールが届いた形跡が無い。このため、「キャンセル操作をした日時は何時ですか?」という質問には、旅行先の変更を決定した「8月20日・21日のどちらかであるのは間違いないはずだ」と説明した。

 「アクセスの履歴を調べてみるが、電話では、これ以上詳細を調べることができないので、メールで問い合わせし直してほしい」と言われたため、必要な情報を問い合わせフォームから入力・送信した。
 そして9月7日、届いたメールの内容は、「キャンセルの操作記録の確認ができませんでした。従って、キャンセルはなかったものと考えられます。ご了解ください」というものだった。

 サイト側の主張である、”キャンセルの事実はない”という2つの根拠
・キャンセル確認メールが届くはずであるが、それがない。
・キャンセルをした操作記録は確認できなかった。
 と、いうのは、いずれもサイト側の都合で、どうとでもなる内容で、到底納得できるものでは無い。しかしながら、当方としても「キャンセル画面のハードコピー」といった、キャンセルを証明できる物証がないのも事実である。このような場合、どういった方法でもってサイト側と交渉すればよいのだろうか。
なお、実際の宿泊先であった旅館には、現況を説明している状態である。

 処 理 概 要

 (1)
 相談者の示してきた「価格.com」のurlをクリックすると、そこには「“今年の”ウイルスバスター」に関する内容になっていた。

 そこで相談者には、「“翌年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ1ユーザ」の注文時の画面を保存していたら、メール添付にて送ってくれるよう伝えた。
 また、やり取りしているメールがあれば、その内容を送受信日時のわかる状態にて、また、事業者のサイトを確認すると、注文後事業者より「ご注文確認書」を送っているようだったので、それらも併せて送るよう伝えた。
 さらに、事業者側は、今回注文されたのは「“今年の”ウイルスバスター」では無く、「“翌年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ1ユーザ」であったこと自体を認めているのかどうか、相談者に訊ねた。

 相談者からそれらに対する返答と資料が送られてきたが、注文時の画面の保存はなく、「ご注文確認書」には「“今年の”ウイルスバスター」の商品名が記載されていた。
 また事業者側から送られてきているメールには、『相談者から注文されていたのは「“今年の”ウイルスバスター」であり、サイト上では「“翌年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ1ユーザ」は扱ってすらなく、相談者が間違えて注文したのだから、サイトに記載のように返品交換には応じられない』という主張であった。

 そこで、さらに相談者に対し、サイト上で注文完了時に表示される確認画面、若しくは注文完了画面等を保存していないかどうか、また、その他、何でも良いので「“翌年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ1ユーザ」を注文したという事実が確認できる資料はないかを訊ねた。
 しかし、相談者からは、当時「“翌年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ1ユーザ」を注文したという、客観的な事実が確認できる資料は出されなかった。

 そこで、こちらでそれら経緯を把握する限りでは、今回、相談者は「価格.com」で「“翌年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ1ユーザ」で検索はしたものの、そこからリンクをたどった先の事業者サイト上では、間違えて「“今年の”ウイルスバスター」を注文してしまったのではないか、と考えられた。

 従って相談者には、こちらで貰った資料、及び内容では、注文時確実に「“翌年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ1ユーザ」を注文したという客観的な事実が確認できず、今後も事業者が「“翌年の”ウイルスバスターインターネット セキュリティ1ユーザ」を販売したことについて全く認めていないようであれば、交渉は平行線をたどる可能性が高いのではないか、と伝えた。

 

(2)
 当該サイトを確認すると、サイト自体はポータルであり、予約等は当該サイトを通じ、各宿泊施設に届く流れになっていた。また、予約やキャンセル手続きは、ログイン認証が必要であった。従って、相談者がキャンセル手続きした際も、当該サイトのサーバ上でログイン認証後、手続きをしたものと思われた。

 従って、もしそのサイトから、サーバ上では相談者キャンセル操作の記録がないと主張されてしまった場合、相談者側でキャンセルの立証が全く出来ないということになり、その場合は、正直、今後交渉がかなり難航することが予想された。

 そうすると、当時、相談者が確かにキャンセル手続きしたということを、客観的に見ても納得してもらえるような説明をひとつひとつ積み重ねて、サイト側の理解を得ることが必要であろうと伝えた。支払い前であったため、今後、事業者や施設側が相談者の主張を全く受け入れないようであれば、減額交渉なども視野に入れてみてはどうか、と伝えた。

 解 説

  自分は確かにウェブ上やメールで注文(キャンセル)したはずが、自分のほうにも相手方のサイト側にも、その記録が無いため、結局交渉は平行線をたどるというケースがある。  
 インターネットショッピング等が一般化されたころから「注文の際のメールや画面は、必ず保存するかプリントアウトしておこう」という啓発が、このときに活かされるはずなのである。それは、同時に自分自身においても、注文の「勘違い」を防ぐためといえよう。

 同じようによく起こるトラブルで「エラーが出たため同じ内容の複数繰り返してしまい、結果、それらすべてが承諾されてしまった」というケースは、以前いくつか紹介したことがあるが、これらのケースでは、短時間に同じ内容の注文を繰り返していれば、客観的に見ても、それは当時、注文者のPC上で何かしらの問題が発生していたのではないか、と容易に想像がつく。

 しかし、今回紹介したようなケースでは、双方の主張が真っ向から対抗している場合、相談機関としても、やはり相談者側にある程度の客観的な証拠が無いと、その主張が合理的に受け入れられる内容なのかどうかが判断しにくいのも事実である。
 (1)のケースでは、こちらとしても相談者の主張に正当性が認められるものが無いかどうか、何とかして探したかったのだが、相談者が提出してきた資料を見れば見るほど、それは事業者側の正当性を裏付けていくものでしかなかった。
 (2)のケースも、サイト上には、キャンセル手続きした際は「キャンセル確認メール」が届くとされているのであるから、それが届かなければ相談者側においても、電話等で再確認することもできたはずである。

 「言った・言わない」で交渉が平行線をたどるときは、客観的にみても納得できるような事実を細かく積み重ねて説得を試みるように、ネットにおいても証拠の無いものは、当時の状況や心境を細かく説明して、どこまで相手(または相談機関)を納得させられるかどうかにかかってくる。その間に、もしかしたら自分の勘違いに気づくことがあるかもしれない。