第五十九話: 期待したのに

 
相談事例から“今どきの消費者”

第五十九話: 期待したのに

 相 談 概 要

 あるSNSについての相談。
 ここは、各ユーザがアバターを所有し、それの着せ替えがメインのサービスである。その中では、着せ替えアイテムの販売、フリーマーケット(不要な着せ替えアイテムを売り買いする)の運営、等があり、付加機能として、SNS内でしか使えないメール機能“メッセージ”、チャット機能“一言レス”などがある。

 遊び方としては、SNS内の仮想通貨で着せ替えアイテムを購入し、自分のアバターに着せてスナップを撮ったりする。仮想通貨は、日々、SNS内で遊んでいれば、少しずつたまるが、多くのユーザは、フリマで不要な着せ替えアイテムを売る、もしくは着せ替えアイテムの転売の差益、ならびに、仮想通貨を購入(1ポイント=1円)して遊んでいるのが現状である。

 私は、フリマで安値で仕入れたアイテムを高値で売り抜けた差益で遊んでいた。断っておくが、“転売”は利用規約違反ではない。
 ネットで株式の売買をしていた私にとって、転売は、ごくごく普通の行為だった。ところが、高値で売り抜ける私を快く思ってない人たちがいて、その人たちは2ちゃんねるの掲示板“(SNSの名称)の痛い奴”という板に、私のハンドルネームをもじって悪口を書き立てていたのである。

 この書き込みに気がついたのは、私が、SNS内でイジメにあい、不当な退会を強いられた、まさにその日だった。
 きっかけは、SNS内での一言レスで、複数の方から根拠のない誹謗中傷を受けたことで、事態はどんどん大きくなり、私が退会すると言わなければ、収集が不可能な状態になり、結局、私は、SNSの退会を余儀なくされてしまった。

 退会の準備(今まで投稿した画像の削除など)をしているときに、一言レスでのイジメを見ていた方(一言レスの閲覧は誰でも可能)から、『2ちゃんねるで悪口書かれてるよ』と、URL付きでメッセージが届いた。
 2ちゃんねるに、このSNSの板があるのは知っていたが、見るのはそれが始めてで、そこで私は“乞食婆”とか、“物乞い婆”とか、書かれたい放題だった。さらに、私が一言レスでつるし上げにあっている状況まで実況中継されていた。

 その夜は、一言レスで複数人数の方から誹謗中傷されたこと、2ちゃんねるの書き込みなどが怖くて退会することしか頭になかったのですが、翌朝少し冷静になって、SNSに“誹謗中傷・イジメ”などを通報する機能があることを思い出した。
 それで、SNSに再度アクセスしたのだが、退会してしまってからは通報できないことが判明。そこで、私は該当者を通報するために、再度、別のハンドルネームでアカウントを取得、該当者を通報した。
 それから、問い合わせフォームより、今回の退会騒動の顛末を説明し、該当者の処分要請と、不当な退会により放棄せざるを得なかった仮想通貨ならびに着せ替えアイテムの返還を求めるメールを送った。
 (私は退会時、10万以上の仮想通貨と3,000弱あまりの着せ替えアイテムを所有していた)

しかし、SNS運営事務局からの返信は、非常にお粗末なもので、前者に関しては、2ちゃんねるは他サイトなので対応できかねる(私が処分要請を出したのはSNS内でのイジメに加わった人たちです)、後者に関しては、システム上できかねる、といった内容だった。

 このSNSは、もとは大手広告代理店の一部門で、それが独立して会社になったものだったので、大元の広告代理店に問い合わせることにして、何度か同内容をメールで問い合わせたのだが、なかなか返答が無く、仕方なく広告代理店には電話をすることにした。
 電話でこれからメールを送る旨お伝えし、お返事を必ず下さい、と念を押したところ、返信があったが、返信元は、“SNS運営事務局”。
 ただ、この返信で、前回と違う箇所が1点だけあり、前回の返信では『システム上できかねる』と言っていた、仮想通貨と着せ替えアイテムの返還について、『システム上できかねるが、検討する』と書いてあった。

 なので、返信を心待ちにしていたが、しかし、いくら待てど返信はない。さらに、催促のメールではないが、現況を尋ねるメールを送り、それにも返信がなかったので、再度、現況を尋ねるメールを送った、それにも返信がなかったが、このSNSは電話対応はいっさいしない会社なので、仕方なく、再び広告代理店のほうに電話をし、事情を話しSNSの電話番号を尋ねたが教えてもらえず、一方的に電話を切られた。
 それから1時間もしないうちに、SNS運営事務局より、メールの返信があったが、内容は、『仮想通貨と着せ替えアイテムの返還について検討しているが、もう少し時間がほしい』
とのことだった。

 なので、私は、メール対応の遅さの指摘、ならびに仮想通貨とアイテムの返還の検討についてよろしくお願いします、それから、御社の対応について明日相談機関に問い合わせをさせていただく旨、メールで返信した。

 それから数時間後、SNS運営事務局から『システム上、仮想通貨ならびに着せ替えアイテムの返還はできかねる』と返信があった。愕然とした。さんざん待たされた挙句、システム上できない、と最初と同じ回答で、呆れて言葉もなかった。
 私は、このメールに返信で、仮想通貨および着せ替えアイテムの返還、または現行のシステムで可能なそれに順ずる対応ができないのであれば、それ相応の代償の支払いを要求します、と書き、そして、そのどちらの対応も出来ない場合、しかるべき手段を取らせて頂きます、と書き添えた。
 まだ、このメールに対する返信はないが、届いたとしても怖くてみることが出来ない、“しかるべき手段”などと書いているが、実は私には何の知識も味方もない。

 処 理 結 果

 当該サービスを退会した自体は、相談者の意思により行われたものであることは確実であり、少なくとも事業者側の落ち度や約束不履行によるものではなく、また、事業者側が相談者に対し、規約を守って利用しているにもかかわらず不当に退会を求めた結果というわけでもないように見られた。

 そこで、当該SNSサイトの規約を確認すると、

『第7条(退会)
会員は、本規約及び弊社が定める方法により、いつでも会員サービスの利用を終了することができるものとします。
退会に伴い、電子メール等による情報の提供を受ける権利、キャンペーンやアンケート等による当選の権利等を含め会員としての一切の権利を失うものとします』

 といった記載があるので、今回事業者側が、既に退会済み会員のデータを返還・移行しない決定を下したとしても、その対応に特に問題があるとまでは言えないと伝えた。

 ただ、もし、今回のような状況に貴方様が陥っていることを相談者が事業者側に通報し、その状況を事業者が知っていて放置していたような場合は、事業者に対し損害賠償請求を検討することが可能かもしれなかったが、今回は通報前に自ら退会したということだったため、この点も事業者に対し責任を問うことは難しいと思われた。

 そこで、相談者が今後検討出来る内容としては、相談者に対して、当該SNSサービス内や外部掲示板にて誹謗中傷を繰り返した書き込み人に対し、それにより退会せざるを得なかった、精神的苦痛を強いられたとして、損害賠償請求を検討するということが考えられる。
 ただ、この点は書き込み人を特定するためのログ開示請求が必要となり、かなりハードルが高くなるため、その可否や方法については、弁護士といった法律専門家に相談するよう伝えた。

 解 説

 この相談者には、もう少し冷静な頭が必要だったのかもしれないが、誹謗中傷を知ったときは冷静ではいられなかったのかもしれない。
 誹謗中傷の相談の場合、本人はともかく出来るだけ早く何とかしたいと、かなり焦っているのだが(相談でも早く回答が欲しいと主張する)、それら誹謗中傷が原因で、すぐに身体や財産に影響が及ぶようなケースはほとんどないように思われる。
 そのような時こそ、画面の保存や証拠を手元に残しておいたり、他人に相談して客観的な意見をもらうなどの冷静な頭が必要である。

 このケースは、サイト運営側の「検討する」という回答に、過剰な期待をもってしまったために、結局対応がなされないと知ったときに、サイト運営事業者に対して、いわゆる逆恨みの念を抱いてしまった。女性に多いが、精神的に幼いタイプである。
 ただ、このようなタイプは実は非常に立ち直りも早いので、あまり心配は要らないかもしれない。1ヶ月もすれば、他のサイトで同じように遊んでいることだろう。