第六十一話: 一刻も早く削除して欲しい

 
相談事例から“今どきの消費者”

第六十一話: 一刻も早く削除して欲しい

 相 談 概 要

 (1)
 セクハラを受けているとの知人の話しを聞き、その団体のブログのコメント欄に、実在の会社名と支店名をあげ、そこの支店長がセクハラをしていると書いてしまった。
 知人にその事を話したら、明日から会社に行けなくなるから削除して、と言われ、新しいコメント欄に、「全てのコメントを早急に削除して下さい」とコメントを入れたが、更新頻度が少ないブログの様で、4日経過しても削除されていない。
 どうしたら削除してもらえるか。

(2)
 紹介するとポイントがもらえるということで友人に勧められSNSサイトに登録した。最初は知り合った人と会話していたが、やがて退会した。
 しかし、勧めてきた友人に僕の操作していたアバターが残っていることを聞かされた。当然、プロフィール欄や書き込み欄には僕のプロフィールや書き込みが残され、慌ててサイトにアバターの削除と書き込みの削除を求めたが、サイトからは退会後のアバターや日記、データの削除は行っていないとのこと。
 個人が特定されることを書いてはいないとはいえ、誰かに恥をさらしているようなので削除して欲しい。

(3)
 現在、私の書き込みが、ある掲示板に掲載されている。
カテゴリーは出会いの恋愛の同性愛で、トピックスを立てている。うっかりして、投稿者名に私の携帯のアドレスを書いてしまった。また、私が現在病気であることや妻子と別居であることや所在地についても書いてしまった。つまり、私という人間が内容から見て特定できてしまうような書き込みをしてしまった。
 この掲示板は誰でも見られてしまうものであり、もし、私の子供がこの掲示板をみて、自分の父親が同性愛であることを知ったら本当に傷ついてしまう。
 何度も削除のお願いのメールを送っているが、1週間たっても削除をしてくれない。

 処 理 結 果

 (1)のケースは、こちらで相談を受け付け確認した時点では、既に削除されていたため、その内容を確認することは出来なかった。
 
 しかし匿名で書き込んでいても、例えば相手方が名誉毀損等による慰謝料等の損害賠償請求を検討する場合は、プロバイダ責任法により掲示板管理者に書き込み人を特定するためのログ開示を求めることが可能となる場合もあるということを助言した。

 (2)のケースでは、相談者は中学生とのことだった。
 プロフィール欄は確認したが、ただ、相談者の個人情報を特定する情報や誹謗中傷に関係するような書き込みは特に何もなかったため、このデータが削除されないことにより、何か実害があるのかを訊ねてみた。

 そうしたところ、実害はないようだったが、今後、何か起こるのではないか心配であるということを盛んに主張した。規約等においては、退会することでデータが削除されるという記載は確認できなかった。しかしメールアドレスでログインと編集が可能で、退会後も再入会した時に、そのデータがそのまま使用できるようになっているようだった。

 そこで、相談者には、心配する気持ちは分かるが、なんら具体的な実害がない状態において、ただ「・・・だったらどうしよう」「きっと・・・になるかもしれない」と仮想しては不安に陥っているよりも、逆にしばらくこのことを忘れて様子をみてはどうか、または再入会し、自身の手で再度ページ内の記載内容にアクセスし、その内容を変更してみてはどうかと伝えた。
 しかし、データが削除されないことにより、本当に日常生活に支障をきたしたり精神的な苦痛が続くというのであれば、先ずは親と相談した上で弁護士等による法律相談を受けるよう伝えた。

 (3)のケースでは、自ら立てた掲示板のトピックスの削除を希望とのことだったため、そのトピックスの内容を確認した。個人名は書かれていなかった。当該掲示板のヘルプ等を確認すると、自ら作成したトピックスは削除できず、また24時間以上経過したメッセージも削除できないということだった。

 そうすると、例えば明らかな個人情報が記載されているような場合など、規約やガイドラインに違反するような書き込みであれば、逆に運営事業者側により削除される可能性もあるが、今回はそれらにも一概には該当しないように思われた。
 また他人の権利を侵害するような書き込み、例えば他人により自分を誹謗中傷するような内容が書き込まされているような場合も、運営側に書き込みを削除するよう申し出て、また削除に応じない場合は、その責任を運営会社に求めることが可能なケースもあるが、今回は、どうもそのケースにも該当しないように思われた。

 インターネット上に自らが公開した情報は、あとから全てを回収することは不可能に近く、その責任は自らが負うという考え方も必要で、自ら書き込んだメッセージやトピックスの削除に対しては、やはり掲示板運営会社に削除を申し出るか、ただ、削除に応じなかったとしても、それを強制することもなかなか難しいように思われた。

 ただ、一定期間書き込み等が行われなかったトピックスに関しては、自動的に削除されていくようだったため、先ずはそれを待ってみてはどうかと伝えた。
 また一方で、インターネット上に存在する膨大な情報の中から、自分の家族がその書き込みを見る機会が本当にあるのかどうか、他人が見て自分の書き込みであることを特定できるかどうか、それら確率は、もしかしたら決して高くは無いのではないかと伝えた。
 ただ、どうしてもというようであれば、法務省人権相談の窓口に相談してみて、何か対処方法は無いのかどうか確認してみてはどうか、と伝えた。

 解 説

 インターネットユーザであること、即ちいつでも自分が情報発信者になれるということでもあるが、書き込みに対する相談も多くなっている。
 他人から、自分のことや誹謗中傷等が書きこまれていて困っている、という相談内容ももちろんあるが、今回紹介したケースのように、自ら書き込んだり発信した内容の削除を求めるケースもある。

 ただ、自ら書き込んだり情報発信したものについては、掲示板等においても自分で編集したり削除するためのツールが用意されていることも多い。しかし、そのツールを使うためのデータすらなくしている、若しくはそのツールが使えない、等で削除できず、結果、自らの行いを後悔することになるのである。

 ただ、相談でいただく内容は、明らかに個人を特定できるとまでは言えない内容のことがほとんどで、それが対応に苦慮する点である。逆に個人が明らかに特定できる内容が書き込まれていたら、今は速やかに管理人や運営会社から削除されているのだろう。
 ネットユーザのだれもが発信者としての責任をある程度自覚できるようになる社会になるには、まだまだ時間が必要なのかもしれない。