法律解釈17: 定期行為:法律解釈編

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈17: 定期行為:法律解釈編

 相 談 概 要

 オークションでファミリーセールの招待状を3,200円で出品した。ファミリーセールの開催期間は25日から27日までであり、落札者は招待状の到着が25日の夕方になったため、25日にセールに行くことが出来なくなり、その損害賠償をして欲しいといわれている。
以下、時系列で経緯を説明する。

19日23:06/オークション終了
20日2:37/先方へ当方の連絡先及び振込先をメールする。この時、商品の発送は代金振込み確認後と伝える。
20日11:58/先方から商品の発送先(電話番号の記載無し)及び振込み予定の金融機関のお知らせがメールにて届く。
22日12:30/金融機関にて記帳したが、代金振込みの無し。
22日23:30/先方からの振込み完了メールをチェックしたが無し。
23日1:22/7月22日に振込み完了メール到着。
23日15:00/メールチェックをして、振込み完了メールが届いていた事を知る。
23日16:00/商品発送(普通郵便にて)。
23日17:59/商品を発送したかどうか問い合わせのメールが届く。この時、25日の朝からセールに行く予定だと記載があった。
23日21:38/商品を発送したことをメールで知らせる。
24日17:31/商品が届かないとクレームのメールが届く。この時、25日のためにアルバイトや車両の手配をしていて、全てがパーになったので今後の対処を求められる。
25日午後/先方へ商品到着。

その後、何度かメールでやり取りしているが、債務不履行の話し合いをしたいそうである。25日夜届いたメールを読むと、落札者は中卸しのブローカーをしているようで、今回のセールでギフト用のタオルを200枚ほど購入する予定だったと書かれている。

わたしは個人での出品のため、落札者に「誠意が無い」と言われても、具体的にどの様な誠意を見せれば良いのか分からない。わたしも配慮が足りなかったと反省しているが、落札者側も配慮も足りないと思う。例えば、予め24日必着と意思表示してくれるとか、代金振込み後、携帯に連絡くれるとか。そういったアクションが前もって無い状態で、当方の落ち度ばかり責められている。今後、話し合いをする上で、当方はどの程度、法律上の非があるのか教えて欲しい。また、返金額・損害賠償額など必要ならば、どの程度支払うのが必要なのか。

 法 律 解 釈

 本件売買契約では、25日から27日の3日間いずれでもファミリーセールに行くことのできる招待状が売買の目的となっており、当該招待状を25日の朝までに到着させることが相談者の債務の内容(定期行為 ※)である。そのため、本件では、招待状の引渡しが正しくなされていなかったといえる。
そして、到着が25日の夕方になってしまった原因は、送金メールが23日1時22分であったこともさることながら、相談者の当該メールの確認が、その到着後13.5時間も後であったことによるところが大きいので(この確認が23日の朝であったら、25日の朝までに届いた可能性が高い。)、相談者に過失があるといえる。したがって、買主は、債務不履行を理由に、契約を解除できる。

ここで、契約解除の効果として、当事者間に原状回復義務、すなわち、買主は、招待状を返還し、相談者は、代金を返還する義務があるが、買主は、招待状をそのまま、自己の手元に27日まで置いておいたことにより、その価値を減少させていたことが、相対する代金返還に影響を与えるものと考えられる。
つまり、買主は、招待状が到着した時点で残存していた「招待状の価値」を返還しなければならないのに、直ちに返還せず、価値を失わせたので、代金についても「招待状の価値」について返還しなくても良いこととなる。具体的には、ファミリーセールが初日に行くことに非常な意味があれば、「招待状の価値」は、ほとんど0円であり、相談者は、ほぼ全額の返還を要するが、そうでない場合、2分の1程度の代金を返還する必要があるのではないだろうか。

また、法律上は、買主に解除に伴う損害賠償請求権が発生するが、本件では、一般的に25日にファミリーセールに行かなかったことによる損害を観念できず、相談者もそのような損害が発生することを知ることが出来なかったので、損害額はほぼ0円であるといえる。
なお、たとえ幾らか損害が観念できても、本件では、招待状が25日夕刻到着となったことについて、買主の入金メールが多少遅かったことが、過失相殺、つまり、損害賠償請求権を減額することになると思われる。

以上から、今回、相談者が見せるべき誠意とは、おおよそ代金の半分を返還することと思われる。

※ 定期行為の履行遅滞による解除権・・(民法第542条)
契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。

 解 説

  民法第541条には、「履行遅滞等による解除権」として、『当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる』とされ、契約を解除するには相当の期間を定めた催告をする必要があるが、民法第542条で、契約が定期行為の場合は、その時期が経過したときは、催告することなく直ちに契約の解除をすることができるとされている。

 オークション上では、今回のケースのようなファミリーセールの案内や、興行チケットのような商品を取引することが多いが、これらは開催日までに届かないと意味を持たない。そういった取引は「定期行為」として、催促なしに契約を解除することが出来ると考えられる。
例えば開催日時が決まっているセールの招待状などを取引した場合、その目的は開催日にセールに行くことであり、開催日時の朝までには到着させることが販売側の債務の内容になる。商品が開催日時を過ぎて到着した場合は、債務不履行を理由に契約を解除し、原状回復義務を負う。

 このケースでは、ファミリーセールの開催日が3日間あり、招待状が初日の午後になってから届いたのだが、セールは初日が命、とはいえ、それでも残り2日はセールに行けるし、逆に相手方はその残り2日分の価値を返還できなかったのだから、相談者は代金のおおよそ半額の返還をするべき、となる。

 出品する側もいろいろ事情はあるのだろうが、どうしてこうもぎりぎりで取引するのだろう。単に余裕を持って取引すれば済むことだと思うのだが、ぎりぎりでいけなくなったときの「もったいない」精神から出品しているのであれば天晴である。それなら責任持って相手方に期日までに届ける心がけをお願いしたい。
 同様のケースであっせん解決した事例を「いまどきの消費者」下記ページで紹介しているので、こちらも参照して欲しいと思う。

定期行為:あっせん編