ガイド詳解1: 契約成立時期について

 
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ガイド詳解1: 契約成立時期について


 本ガイドには、注文を行う消費者に契約成立時期が明確に認識できるようにすること、また事業者側からの承諾の意思表示はなるべくメールで行うことや、メールで行う場合は消費者側よりメールが届かないと主張されたときに、その証明を消費者側に求めないよう記載しています。

 まず、本ガイドでの記載内容です。

3-5.契約成立時期について
 事業者は注文前に確認できるページにて、契約の申し込み、それに対しての承諾の流れについて説明し、契約が成立する時点を明記することにより消費者が契約成立時期を明確に認識できるようにする。

 また、事業者からの承諾通知は注文終了画面を通じてではなく、電子メールその他の方法にて行われることが望ましい。但しその場合に、承諾メールが消費者に読み取り可能な状態でメールサーバに到達していなかった場合は、売買契約は成立していないこととし、その際の証明を消費者側に求めてはならない。

 さて、ネット上における契約成立時期は、申込に対する承諾の通知が到着した時点とされています。しかし、本来の民法の考え方は以下の通りです。

遠隔者に対する意思表示・・(第97条)
 ・隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる
 2 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。 (遠隔者に対する意思表示は到達主義)

遠隔者に対する承諾の意思表示・・(第526条)
 ・隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
 2 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。  (遠隔者に対する承諾の意思表示は発信主義)

承諾の通知後の申し込みの撤回・・(第527条)
 ・申込みの撤回の通知が承諾の通知を発した後に到達した場合であっても、通常の場合 にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、承諾者は、遅滞なく、申込者に対してその延着の通知を発しなければならない。  (承諾通知発信後に申込の取消通知が届いた場合、通知義務を承諾者に課す)

 しかし、いわゆる「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」において、以下のように定められています。

電子承諾通知に関する民法の特例・・(第4条)
 ・民法第526条第1項及び第527条の規定は遠隔者間の契約において電子承諾通知を する場合については適用しない

 これは、ネットなど電子的方法を用いて承諾の通知を発する場合、瞬時に相手方に意思表示が到達するため、発信主義を維持する前提を欠くものと考えられるため、そのような場合には契約成立時期を承諾の通知が到達した時点と変更されているものです。 これはB2Cだけに適用されるものではありません。

 こういった契約成立時期について、事業者側が特に設けていない限り、上述のように消費者からの申込に対する承諾の意思表示が消費者に届いた時点で契約成立となります。 この承諾の通知は必ずしもメールでなくても良く、例えば注文後のウェブ上で、申込に承諾したという意思表示が、消費者のモニター画面に表示されるという方法でも問題ありません。また多くのシステムで導入されているように、注文後自動的に返信メールが発信されるような場合は、その自動返信メールが届いた時点で契約成立とも考えられます。

 ただ、B2Cに限定されないことからも、この法律は任意規定であり、特約によって変更可能です。事業者側にて、別途契約成立時期を定めて表示しておけば、その内容が消費者に一方的に不利なものでない限り、基本的にはその内容が優先されます。例えば『商品発送のお知らせを発信したとき』とか、『商品確保をした時点』としても構わないということです。

 ただ、こういった特約がある場合はもちろん必ず表示する必要があるとともに、たとえ特約が無かったとしても、契約成立時期がはっきりわかることによって、消費者が自らの契約の有効性を理解し、安心して取引が出来ることと考えます。

 さて、通常の取引が遂行されているのであれば、特段この契約成立時期について問題視されることはありません。事業者によっては、早く消費者との契約を成立させて、消費者側からの一方的なキャンセルを回避したいという思いがあるかもしれません。しかし、それは逆に言うと、事業者側からも、一方的にキャンセルできないということになります。

 例えば、在庫を超える注文を受けてしまったり、価格や表記ミスをしたために、物理的に商品を引き渡すことが出来ないようなケースです。ネット上の注文は24時間受け付け可能ですので、上記のようなケースでは、夜中に大変な注文を受けてしまうといったリスクもあるのです。

 従って、あまり契約成立時期が早いことがメリットにつながるわけでも無いと考えます。人間により注文内容を確認した上で、改めて承諾メールを発信するといった方法が、双方においてもスムーズな取引が出来るのではないかと思います。

 承諾の通知をメールで行う方が望ましいと言うのは、双方物証として残せると言うこと、消費者側においても自分の注文内容を確認し、契約の有効性や支払い義務を認識、理解するという点で重要なことと考えているからです。

 さて、契約成立時期を承諾メール受信時としていた場合、消費者側にメールが届かなかった場合はどうなるのでしょう。受信した時となっている以上、契約は成立しないと考えられます。その点で消費者とトラブルになった場合、事業者側には発信履歴があるのだから当然メールは到着しているはずだ、と主張する事業者があります。しかし、発信されたメールが必ず届くという確証は、残念ながら今のネット社会ではありません。ネット社会を総括する管理者はいないからです。

 また、メールが『届かない』ことを消費者が証明することは困難です。そのような場合は消費者に証明を求めず、不安定なネット世界で事業を行っているということを、事業者側においても改めて認識する必要があると考えます。