<事例>
願い事に対し念を入れた数珠を限定で販売しているサイトから注文し、次の日に「一週間前後で届く」とメールが届きました。しかし、後から検索で悪徳商法のブラックリストに載っていることを知って怖くなり、昨日メールで注文をキャンセルしました。
そこで、キャンセル理由として『急遽自分が療養しなくてはいけなくなり改善してから再度申し込むので、今回は商品が手元に届いてませんし、また入金をしていないので、キャンセルしたい』と書きました。しかし、相手からは、今のところ何も返事はありません。
注文するときに、あとからおかしいと思ったのですが、送信前の確認画面がなく、すぐ自動的に注文フォームが送信できたことです。ホームページをみると、『注文品につき、返品キャンセル不可』と書いてあります。
さて、インターネット取引においては、店頭販売や電話注文と異なって、注文する消費者が、注文における操作の途中で思わぬミスをしてしまう可能性、そして、そのミスがわからないままに注文が完了してしまう可能性があります。特にオンラインシステムにより、注文から、その承諾を注文者に通知するまでが、全て自動化されていることも多いと思います。
消費者側の注文ミスにより、その消費者はキャンセルが出来るかどうかを考える上で、1つの基準となるのが、電子消費者契約法の第3条です。
・電子消費者契約に関する民法の特例・・電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律(電子消費者契約法) 第3条
(要旨抜粋)
民法第95条但し書きの規定は、消費者が行う電子消費者契約の申し込みまたはその承諾の意思表示において要素の錯誤があった場合であって、1.意思表示を行う意思が無かったとき、2.意思表示と異なる内容だったとき、は、適用しない。
但しその消費者の申し込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について、確認を求める措置を講じた場合、又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要が無い旨の意思表明があった場合にはこの限りで無い。
・錯誤無効・・民法 第95条
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
消費者が事業者に対し、注文ミスによる契約の錯誤無効を主張した場合、事業者からは、民法第95条の但し書きにあるように、消費者に重大な過失があったと主張されてしまう可能性があります。
そこで、電子消費者契約法の第3条では、消費者が注文時に、(1)意思表示を行う意思が無かったとき、(2)意思表示と異なる内容だったとき、については、この但し書きを適用しないとしました。
ただし例外として、事業者側が、消費者が注文時にその注文画面を確認できるような確認画面を講じていた場合は、この限りでは無いと定めています。
言い換えれば、注文を受ける時、事業者側で、消費者が入力した内容を確認できる措置を講じていない場合には、消費者側に重大な過失があっても錯誤無効を主張することが出来るとなります。これはBtoC取引に関してのみ適用され、また、そのため強行規定と考えられています。
さて、例題のケースでは、注文時、確認画面が講じられていなかったということですので、この消費者は、一見、この電子消費者契約法第3条により、契約成立後も錯誤による契約の無効が主張できると見えます。
しかし、民法第95条は「法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」となっており、さらに、電子消費者契約法第3条では「(1)意思表示を行う意思が無かったとき、(2)意思表示と異なる内容だったとき」に、但し書きを適用しないとなっています。これらは、(1)申込むつもりがなかった、(2)AをBと間違えた、1個を10個と間違えた、等のケースが該当するものと考えられます。
つまり、この条件から外れるケースであった場合は、たとえ確認画面が講じられていなかったとしても、これら法律の適用が無いと考えられます。
この例題のケースでは、キャンセルの理由が「後から検索で悪徳商法のブラックリストに載っていることを知って怖くなり」「急遽自分が療養しなくてはいけなくなり改善してから再度申し込むので、今回は商品が手元に届いてませんし、また入金をしていない」ということですので、そもそも要素の錯誤に該当しない可能性も出てきますし、また、申し込むつもりがなかった、注文する数珠の種類や個数を間違えて注文してしまった、というケースでも無いように見受けられます。
ただ、そもそも、事業者側において、注文における確認画面を講じないということは、消費者から「そもそも申込むつもりがなかった」と主張されてしまえば、それには対抗できないというリスクを負っているものと考えられます。今日、確認画面が表示されるシステムを講じることは、そんなに大変なことでは無いと思われます。
そして、この相談者については、交渉前に、もう少し「知恵」が欲しいところでした。
同様の内容として、会員コンテンツ「相談事例から”法律解釈と実務”:法律解釈10: 確認画面と錯誤無効・消費者契約法(前編)」もご参照ください。
この電子消費者契約法第3条に関係するトラブルについては、このあとも幾つかの例題の紹介と解説をします。