その6: ウェブ上の確認画面について(3-2)

 
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その6: ウェブ上の確認画面について(3-2)

 国際間取引のケースでは?

<事例>

 サイト内のバナー広告に「名刺無料」という広告があり、そのページに飛びました。
 商品を2,000円分ほど注文したところ、「追加注文で無料」という表示につられて、送料が無料になるのかと誤解して追加ボタンを押したところ、それで発注完了になってしまいました。
 サイトの構造上“最終確認ページ”がなく、キャンセルも不可で、バックボタンで戻って注文をし直したところ、重複での注文扱いになってしまいました。

 この会社では日本でのオフィスをサイト上に掲載しておらず、日本語表記ですがアメリカのサイトのようです。サイト内のメールフォームのみがクレームの窓口だったため、すぐさまメールフォームから注文取消しのリクエストを送信しましたが、メール受付の自動メールが返信された以降、なんの連絡もありません。
 自動メールには「すぐに回答します」という文面がありましたが、以降全く連絡がなく、その後2回同じ内容のメールを送りましたが、結果は同様です。

 そのままなんの連絡もないまま、先週商品が重複分を含めて二箱送られてきました。
 カードでの支払いを選択していたので、来月引き落としになりますが、(金額は総額で7,000円ほどです)この会社のECサイトの意図的な不備ともいえる構造にどうしても納得いきません。

 

その5 ウェブ上の確認画面(3-1)の続き

 【今回のケースで契約の錯誤無効を主張できるかどうか】

 今回のケースの場合、先ず、「追加注文で無料」というサイトの表示を、相談者は『「送料が無料になる」と誤解をした』ということでした。これは、もともと海外事業者のサイト上の日本語の表現が曖昧であり、そのため、それを見た相談者に誤解を生じてしまったことになると考えます。
 海外事業者の日本語サイトには結構ありがちなことなのですが、日本語とはいえ、もともと英文で表記されていた内容がそのまま日本語に直訳したような(翻訳ソフトを通したままのような状態)文章となり、このサイトにおいても、日本人が読むと、ところどころ意味が通じにくい部分がいくつも見られました。

 サイト上の日本語の文言を前提に、貴方様とサイトとの取引において合意がなされていた場合は、その解釈の問題となり、それと真意にずれがあるのであれば錯誤無効の問題になります。
 しかし、もともと錯誤無効は単なる民法上の規定ですので、上記にいう「強行規定」にあたるかは疑問の部分があり、日本法上どのような構成で無効主張ができるのかに影響される場合があります。

 さらに、この誤解が、上記電子消費者契約法第3条の錯誤無効において2つの要件のいずれにも該当しない場合は、例え確認画面が講じられていなくても、この電子消費者契約法による契約の錯誤無効を主張すること自体が出来ないとなります。
 この点、「送料が無料になると誤解した」という点は、上記電子消費者契約法の要件でもある要素の錯誤に該当しない可能性が懸念されます。

 さらに、『バックボタンで戻って注文を直したところ、重複での注文扱いになってしまった』という件に関しては、重複発注と考えられますが、このような重複発注に関しては、電子消費者契約法第3条の解説に、以下記載があります。

 ・・なお、インターネット通販においては、同じ商品を誤って複数申し込んでしまう、いわゆる「重複発注」のトラブルがよく発生する。本法は、消費者の操作ミスによる誤った申込み等の意思表示について民法95条の特例措置を設けるものであるが、このような「重複発注」についての適用関係がどのようになるのか、との問題がある。
 「重複発注」は様々な原因によって発生するものと考えられる。
1.いわゆる「ダブルクリック」のように、操作を誤って申込み等を行うことにより重複発注を行ってしまう、
2.通信回線が混雑しており、画面がなかなか切り替わらず何度か申込み等を行ってしまう、
3.申込み等を行った後に不安になって何度か申込みを行ってしまったり、別の事業者と契約を締結してしまう、
のような様々なケースが想定される。

 これらが本法が対象とする要素の錯誤に該当するか否かについては、最終的には個々の事情に応じて裁判所が判断することとなるが、1.は操作ミスによる錯誤であるため本条第1号の場合にあたるものと解されるが、2.3.については。講学上の「動機の錯誤」に該当するケースもあるものと考えられることから、個々の事情に応じて判断が分かれることになると考えられる。

 そうすると、この相談の重複発注のケースでは、少なくとも操作ミスではなく、また、ここで言う「動機の錯誤」に該当する可能性が捨てきれず、事業者側による確認画面が講じられていなくても、錯誤による契約の無効を主張することが出来ない可能性があるとも思われます。

【結論】

 この相談内容を見る限りでは、たとえ当該海外事業者が予め適用する法律を定めていたとしても、相談者は日本の消費者保護の法律を適用するよう事業者側に主張はできますが、そうであったとしても、今回の注文においては、残念ながらすぐに事業者に対し、錯誤による契約の無効が主張できる、というはっきりした判断をするまでには至りませんでした。
 また、最終確認画面がないことについて、サイトの適切な措置を講じるよう主務大臣に申し出ても、その執行はきわめて難しいものと思われます。
 今回のケースであれば、クレジットカード会社を巻き込んで、チャージバック手続きなどにより救済するのが一番現実的な解決への考え方となります。

 インターネットでは海外取引が簡単に行われ、また海外事業者が日本人相手に日本語表記で開設しているサイトも、最近はかなり増えてきています。一見、単純なトラブルに見えても、国をまたぐと複雑になる内容もありますので、逆に海外向けに取引をするような事業者においても同様の注意が必要と思います。