第四十二話: 出品者の悲劇(2)

 
相談事例から“今どきの消費者”

第四十二話: 出品者の悲劇(2)

 相 談 内 容

※ いまどきの消費者 第四十一話「出品者の悲劇(1)」の続き

 (4)
落札されたが相手に買う気が無い。新品を代金引換で、壊れ物を送る封筒で送ったのに「壊れている」と言われ、「新しいのを送りますから送料のみ負担してください」とメールしたら、「もういらない、メールしないで!」と言われた。
壊れているから払わないというつもりみたいだが、どう考えても壊れているように思えず、評価欄に「お金を払わないなら訴える」と書いたら、出会い系サイトの掲示板に私のアドレスを載せられ、迷惑メールがたくさんくるのでアドレスを変えることになってしまった。
後からその人の評価を見たら、他の人からも「買う気がないのに落札しないで!」と書かれていた。

(5)
 オークションで、私はゲーム機、任天堂Wiiを発送したのだが、落札者が返品したいということなので泣く泣く承諾した(システム上受けざるを得ない)。しかし、本日落札者から関係のないCDが一枚送られてきた。このオークションのシステム上、受け取り拒否すると代金も商品も落札者のものになってしまうので仕方なく受け取った。
 返品されたものを受け取った以上、このままでは落札者のもとに返金されてしまい、私の手元には関係のないCDが残るだけである。匿名オークションなので、取引相手の情報がわかるのはオークションサイトだけなのだが取り合ってもらえない。
 警察にも相談したのだが詐欺での立件は難しいとのこと。どうしていいのかわからない。

 処 理 概 要

 (4)
 あくまで相談者の内容を一方的に聞くだけなので、本当に商品が壊れていたのかどうかは分からず、今回の落札者の返品の主張に正当性があるのかどうかを、すぐにこちらで判断することが出来なかった。しかし、経緯を見る限りでは、確かにこの落札者には既に購入の意思は無いものと思われた。

 ただ、代金引換で相手方が受け取り先で代金を支払い商品を受け取ったのであれば、郵便局で1〜2日、宅配業者でも数日以内には相談者に代金が支払われるので、本来の流れにおいてこの相談者は、このまま代金を受け取れることと思われた。また、落札者がその間、支払いをストップし、取引の解除や取消しを申し出るのであれば、落札者は手元の商品を相談者に返還しなければならないことを伝えた。

 今後、もし代金を受け取れないまま送った商品の返還がなされない場合は、落札者の住所を知らされているのであれば、先ずはそこに配達記録や簡易書留郵便にて、今までの経緯と期日を定めた商品返還、又は約束どおり代金を支払うよう記載して、書面にて通知してみること、そして、オークションサイトにも、一連の経緯を報告してみるよう伝えた。

(5)
 オークションは間に決済エスクローが入り完全匿名での取引。このオークションシステムにおける取引と返品の流れにおいては、概ね相談者の主張の通りであるが、この状態にて、オークション側から取り合ってもらえないという理由が分からなかった。返品されてきた商品が出品物と明らかに異なるので、決済エスクローより落札者に返金がなされる前に、返金をストップして落札者に対し調査をするよう強く主張するよう伝えた。

 オークション上ではお互いメールアドレスも分からないような匿名取引だが、取引当事者だけがメッセージのやり取り可能な機能が付いているので、落札者には、すぐにその機能を利用して落札者に連絡を取り、連絡が途絶えた場合は、すぐにその旨をオークションに知らせ、連絡が途絶えたということは落札者側に悪意があるからだとして、警察にも相談するよう伝え、警察よりオークションに対し、落札者の個人情報を開示するよう働きかけてみるよう伝えた。

 解 説

 元来、ネットオークションは、そのほとんどは先払い取引であったため、どうしても詐欺被害に遭遇するリスクがあった。大手のオークションでは補償制度が導入されたが、それも限度があり、またオークション市場の信用性を確保するためにも、最近では、各オークションサイトはそのプラットフォームの中で積極的に詐欺撲滅に乗り出すようになった。

 そこで、詐欺撲滅に一番効果的で簡単なのは出品者側を締め付けることで、出品にあたり個人認証をさらに厳格化したり、決済手段を限定したり、決済エスクローを導入して商品未着に対応、また落札者側のクレームに応じ出品者を返品・返金に応じさせやすくすることにより、落札者を保護した。さらに一定条件下での入札・落札に関しては、登録や手数料を無料にするなどの優遇をして、今まで二の足を踏んでいたユーザもさらにオークションに参加させやすくして、オークションを活性化しようとする考えもあると思われる。

 そうすると、今度は締め上げられた出品者側の不満が急増する。先ずは、いたずら入札による苦情である。入札に関しては簡単に登録するだけで費用もかからないとなれば、中には、その出品に対し単なる嫌がらせ目的で入札・落札してそのまま逃げる、という問題が発生するようになった。特に年末に入手困難な人気のゲーム機を定価以上で出品してした出品者が、匿名掲示板で次々晒され、軒並みこの嫌がらせ落札を受けたのは記憶に新しい。その後、多くの個人出品者は「新規」IDの入札を断るようになり、オークションに新しく参加しようとしたユーザが入札できる魅力的なものは、実はオークション上にほとんど無い、という奇妙な状態になっている。

 また、オークションシステムそのものを悪用して悪さする落札者も出てきている。出品者側で発生するトラブルは、落札者側のそれに比べ、なかなかこれといった解決方法の提示が難しいものが多い。落札者側の一方的な返品要求や脅しといった当事者間のトラブルよりも、「対応してくれない」「前のシステムに戻して欲しい」「出品を削除された」といった、そのオークションサイトに対する苦情のほうが多いからである。

 なかなか全てのユーザを満足するサービスは難しいと思われるが、出品者側は出品時において取引の主導を握り、ある程度の自衛が出来るのであるから、オークション市場の信用性を高めるという意味においては、オークションシステムが出品者に対し厳しくなった部分について、ある程度致し方ない部分もあるのかもしれない。